本編
明音の失敗
後悔の二文字が明音の頭の中でぐるぐるとまわっている。馬鹿な自分を恨んだ。この大雪の中、外に飛び出した自分。この寒さで顔も冷え、作り笑いを作るのもままならなかった。
駅に吹き込んでくる雪を見ながら、自分を見送る総一郎が心配そうな顔をしていたのを思い出す。外に行くのを止めてくれることを期待していたのかもしれない自分を振り返った。
しかし、総一郎の性格がアレである。自分に自信が無く、会社では活発なイメージを持つ自分を止めるなんて無理難題だと明音は思った。
朝、総一郎が電話で伝えた遅刻の理由は電車が止まっているのではなかったか。今更、自分の愚かさに気づいた明音は引き返そうかと一歩後ろに踏み出そうとした。だが、彼女の見栄が邪魔をする。彼女は駅員以外誰もいない改札を視界の隅で捉えた。

「あぁ、どうしようかな」

寒くて頭が回らない。うまく考えられない自分に苛つきを覚える。明音は口紅の隙間から赤紫色に染まったのが見える唇を噛み締めた。
彼女の選択肢は皆無に等しい。「歩いて帰る」選択はできない。ほぼ徹夜で仕事をしていた明音は今もヒールを履いているからだ。しかも、自分の見栄で「会社に戻る」選択肢は消している。どこもシャッターを閉めているから「何処かの建物に避難する」なんてできやしない。
これから何をすべきか、明音は柱にもたれかかって考えた。しかし、脳は考える余裕など無い。「寒いから、早く暖まれ」という本能でいっぱいいっぱいであった。
自分の見栄を捨てればいい事。そんなことは分かってるのになかなか出来なかった。決断できない自分が情けなくて、ため息が思わず出てしまった。

しばらくしただろうか。明音の足は会社へと向かっていた。薄く塗った口紅の上からでも分かる紫色の唇がその外にいた長さを表していた。寒さで震えが止まらない身体を手でさすりながら、体力なくなった自分に鞭を打った。
明音の視界は灰色になっていた。雪の白と目の疲れからの黒が混ざり合う。片目をつぶり、まっさらな雪を踏みしめて歩く。見栄など張らなければよかったと明音は痛感した。そんな中見えてくる会社のビル。

しかし、そこで緊張の糸が切れたのか、明音の視界は真っ暗になった。

■筆者メッセージ
なんとか今週は雪が降らなそうで安心です。
寒いのが苦手で、早く春になれと思うことも多くなりました。
それでもだんだんと日が長くなってきて、時の流れを感じますね。
ちなみに、うちの近くの池は朝、水面が凍ってます(笑)

>さしさん
そうですね。カップリングも良曲であのシングルはとても良かったです。
最初聞いた時、踏切の音がリアルでびびっちゃいましたよ(笑)
インスタントラジオ ( 2014/02/21(金) 19:19 )