Epilogue
結婚式の時の写真を総一郎は手に取った。幸せそうな2人が写っている。
あの雪の日、彼は明音にこんなことを言われた。
「ため息なんてついたら運逃げちゃうよ」と。
総一郎はそれからため息なんてつかずに、笑顔を作ってきた。苦しい時ほど。
気付けば告白してからもう1年半。この日々は駆け抜けるように過ぎていった気がした。告白し、付き合って、結婚し、子供も産まれた。明音は退職したが、自分は昇進し、幸せな家庭を築いているはずだ。
「総一郎ー!」
明音の呼ぶ声がする。泣く子供をあやしながら家事をする彼女には、総一郎は感謝していた。
今日はその恩返しの日だ。総一郎はあの頃から愛用している手提げ袋から3枚のチケットを取り出した。明音が行きたがっていた旅行券である。有給を勝手に使うのは申し訳なかったがその分働けば良い、そう思った。
「今行くよ!」
総一郎がリビングに行くと明音がソファーに座り、一息ついていた。
総一郎はスッと明音の前にチケットを出した。
「行こうよ。今から」
「でも……準備とか、手続きは?」
「してあるから。ね?」
明音が総一郎に抱きつく。総一郎は安堵した。喜んでくれて良かったと心の底から思った。
すると、明音が白い細長い箱を引き出しから取り出して来た。
「これ、着けて?」
あの頃の思い出が蘇った。少々恥ずかしい思い出ではあるが、懐かしく良い思い出だ。
箱からそのペンダントを取り出すと、明音の背中に周り、それを首にかけた。明音の胸元には小さなダイヤが慎ましく光っていた。
〜fin〜