AKBの執事兼スタッフ 2 Chapters











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第9章 専属
82 Storys 〜離脱〜
「成人の三期生って言ったよね?なんでこのアホ達だけなのさ」

 テーブルを囲む梅澤と山下を見比べ、晃汰は素直に疑問符を隠せずにいる。

「アホってなんですかぁ。せっかくこんな可愛い子達と飲めるって言うのに」

 山下は頬を膨らませ、晃汰を睨む。その隣の梅澤は苦笑いをしながら、カクテルを口に含んだ。

 山下が言い出した『3期の成人メンバーとの飲み会』は、言わば彼女のでっち上げだった。蓋を開けてみれば梅澤と山下の両名しかその飲み会の存在を知る者はなく、

「まぁ、そんな事だろうとは思ってたけどよ」

 晃汰は機嫌の悪さを隠そうとはせず、足を大袈裟に組みながらビールのジョッキを傾ける。そんな彼を山下が宥めるが、火に油なのは言うまでもない。

「つーかさ、いつになったら俺にセラミュのBlu-rayくれんのさ?」

 3杯目にしてビールからサワーに変えた晃汰は、幾らか取り戻した機嫌をそのままに、目の前で同じように顔を赤くするセーラー戦士達に問う。

「私たちもまだ貰ってないんですよぉ。貰ったらすぐに晃汰さんに渡すつもりなんですけどねぇ」

 完璧な山下の返しに、どこからその言葉が出てくるのかと梅澤は唖然とするばかりだった。それでも晃汰の機嫌はさらに戻り、いつしかとても和やかな空気が三人の間に流れ始めた。そんなことも手伝って、下戸の二人が出来上がるのも時間の問題だった。

「美波ぃ〜、お星様が見えるよぉ〜」

「梅ぇ〜〆にラーメン行こうぜ〜」

 梅澤の両肩に寄りかかり、完全に酒に呑まれた晃汰と山下が思い思い口にする。

「曇りだから星なんて見えないし、もう晃汰さんは水も入らないでしょ!」

 やっとの思いで二人をタクシーに押し込んだ梅澤は、とりあえず自分を含む3期生が暮らす乃木坂合同会社が借り上げているマンションへとタクシーを頼んだ。マンションに着く途中でも、彼女は泥酔者達の相手をしていた。

「ほら二人とも、私の部屋でちょっとは落ち着いてください!」

 脚の筋肉が無くなった二人をタクシーから引きずり下ろし、梅澤は文字通り二人の尻を叩きながら彼らを自室へと招き入れた。

 綺麗に並べられたスリッパを誰一人として履くことなく、三人はなだれ込むように玄関を抜けリビングの床にダイヴした。最も健全な梅澤でさえも二人のサポートに疲労困憊の様子で、両隣のへべれけどもに倣って絨毯に顔を押し付けたまま眠りについてしまった。

 梅澤が眼を覚ましたのは、リビングの絨毯ではなかった。服装は数時間前と変わらずではあるが、エアコンの効いた寝室に薄い毛布が自信にかけられているのを寝ぼけた頭で確認し、彼女はゆっくりと上体を起こした。

「あれ・・・?私いつのまにベッド来たんだろ・・・」

 独り言を呟きながら寝室を抜けると、梅澤は例のリビングへと向かった。するとそこには晃汰のジャケットが上半身にかけられた山下が、ソファで寝息をたてていた。一方の晃汰は山下から最も遠い場所で、彼女に背を向けて一定の深い呼吸を続けている。その状況から自身が寝ていた最中に起きた出来事を、梅澤は一瞬にして把握することができた。優しく微笑むと、梅澤はキッチンへと向かった。乾いた喉を水道水で潤してからベッドルームに戻ろうとすると、さっきと同じ体勢の山下がパッチリと眼を開けていた。

「私、そろそろ部屋戻るね」

 山下はゆっくりと起き上がり、かけられていた晃汰のジャケットを丁寧に畳んだ。

「私と晃汰さん、二人っきりにするつもり?」

 小声ながらも、梅澤は山下を引き止める。

「何かとお邪魔でしょ?私。それに、晃汰さんと美波がイチャイチャしてるとこ見たくないしね」

 そう言って山下は悪戯な笑みを浮かべながら、玄関へと向かった。

「がんばるんだぞ」

 別れ際、山下はそう言い残して梅澤の部屋を後にした。玄関に一人残った梅澤は、リビングで寝ている晃汰に振り向いた。乃木坂に留学した当初よりも少し肉がついた身体を折りたたんで横たわる彼を見つめ、梅澤はキュッと拳を握った。意を決した梅澤は晃汰の隣に寝転び、彼の背中にそっと顔を押し当てた。想い人の体温、息遣い、心臓の鼓動。どれをとっても梅澤を暴走させるには申し分のない材料だった。



■筆者メッセージ
なんか美月は、いい意味でこう言うことしそう(笑)
Zodiac ( 2019/08/25(日) 22:51 )