AKBの執事兼スタッフ 2 Chapters - 第9章 専属
78 Storys 〜復帰早々〜
 晃汰が乃木坂46に正式に加入してからと言うもの、マスメディアは面白がってこの事を盛んに記事にする。有る事無い事を無責任に垂れ流し、あたかも晃汰の、乃木坂の選択が誤りであったと言わんばかりの意見を懸命に説く。ただ、その心無い言葉に全く動じないのが、本人を含めた乃木坂陣営だった。晃汰はこの移籍の裏に孕んだハイリスクを承知の上で、乃木坂合同事務所への完全移籍に舵切った。それは今野を始めとした首脳陣も同じ考えであり、世間からのバッシングを覚悟でギタリストとその相棒を迎え入れたのだ。そしてそれ以上にメンバーがそれを望んでいたからだった。

「俺はただ曲を作りたいんじゃない、乃木坂と曲を作りたいんだ」

 決まって晃汰はそんな事を口にし、メンバー達を心の底から喜ばせていた。彼の後を追って乃木坂46の裏方として加入した竜恩寺は、AKBの頃に得た経験を遺憾なく発揮し、僅か数日のうちに徳長の下でスタッフ勢の指揮を執るまでになった。そんな二人に敬意を表し、メンバーを含めた乃木坂界隈の連中は彼らの事を『KKコンビ』と呼ぶようになった。

「これ、今年の全国ツアーの日程。曲は殆ど弾けるだろ?」

 竜恩寺は隣同士で座る晃汰に、数枚にわたって綴られた冊子を投げた。

「まさか、今回はピアニストで出ろって?」

「それ、生ちゃんさんの前で言ってみろよ?」

 ニヤニヤしながら冗談を言う晃汰に、竜恩寺は余裕の返しでそれに応じた。渡された資料にサッと眼を通し、晃汰は思わず口元に笑みを浮かべた。

「今年は名古屋からスタートだな。前回は神宮からだったから、いきなり遠征だな」

 日程に眼を通した晃汰は、去年を思い出すかのように回想した。びしょ濡れになりながらもギターを魂で弾き切ったあの瞬間が蘇り、またあのステージに立てるのかと晃汰の胸は高鳴った。

 次の日から、晃汰はギターを触る時間を意図的に増やした。ファンの為、メンバーの為、そして愛する乃木坂46の為に下手な演奏はできまいと、彼は『最新の晃汰が最高の晃汰』をモットーにひたすらにギターを弾きこむ。

 そんな折、晃汰は意外な人物から夜の誘いを受けた。いつもは晃汰がイジる側にいる、そんな腰柔らかなキャプテンからだった。

「珍しいですね、玲香さんからお誘いいただけるなんて」

 事務所近くの居酒屋に、晃汰は桜井に遅れて現れた。

「そうだよね!私から誘ったのは多分初めてだよね!!」

 いつもの調子で、桜井はアホ丸出しである。対する晃汰も柔らかな笑顔を浮かべつつ、彼女から珍しく誘ってきた真意をいきなり問う。

「それは、もう一人が来てからね」

 Cuteな彼女からは想像もつかない妖艶な笑みを浮かべた桜井は、静かにウイスキーのグラスを傾けた。晃汰も薄いコークハイに口をつけた。

 ギタリストが到着して程なく、乃木坂の看板メンバーが二人のテーブルに座った。

「何飲みますか?まいやんさん」

 晃汰は気を利かせて彼女に注文を聞く。

「うーんと、カクテルが良いかな。晃汰、選んでくれるよね?」

 普段は見せないS石さんが発動し、晃汰は先が思いやられながらも彼女のドリンクとついでに自分のも注文をした。二つのドリンクが届くのを待って、三人は乾杯をした。突然の桜井からの誘いと、伝えられていなかった白石の登場に晃汰はとりあえずの覚悟をすることにした。

Zodiac ( 2019/07/28(日) 17:35 )