75 Storys 〜発覚〜
「みんな連絡があるので、集まってください」
確認を目的としたダンスレッスンが開始されようとしている頃、徳長はレッスン着姿のメンバー達に呼びかけた。
「なんだろね」
頭上に「?」を浮かべながら、選抜メンバーが徳長を中心に円を成した。そんな中には、勘付いているメンバーも数人いた。
「留学で乃木坂に在籍していた晃汰が、昨日を以って留学解除になりました」
徳長は淡々と業務的に話した。私情を付け加えることなく、あくまでも業務連絡とばかりに感情を表に出さない。そんな彼とは裏腹に、眼をひん剥いて驚く連中や涙を流す連中、晃汰に連絡を試みる連中まで多種多様である。
「なんで言ってくれなかったんだろう・・・」
キャプテンである桜井は、素直に落胆した気持ちを隠せないでいる。
「やっぱりね・・・」
齋藤飛鳥は分かっていたかのように、なんとも言えぬ表情を浮かべて目元を押さえた。
「LINE、消してるんだ・・・」
連絡を取ろうとした白石は、誰に向けた訳でもない独り言を呟く。夢の国で撮ったツーショットを背景にしたトーク画面は、既に晃汰の名前が消えていた。
そんなメンバー達の反応を見て、自身の涙腺に危険を感じた徳長は静かにスタジオを後にしようと踵を返した。だが、その背中に何人ものメンバーが声をぶつける。
「徳長さん!晃汰さんは今何処にいるんですか?」
意を決した梅澤が、眼を真っ赤にしながら徳長を呼び止めた。その言葉にピタリと止まった徳長だったが、なおも業務的に答える。
「もうAKBの人間の事はわかりません」
「そんな他人事・・・!」
徳長は梅澤らメンバーに振り返ることなく、返答をする。そんな愛のこもっていない返事に梅澤の語気が強くなる。
「ただ、新曲の『Sing Out!』は晃汰が自分自身と皆さんに宛てて書いた曲です。大切にしてあげてください」
そう言って、徳長はスタジオを後にした。メンバー達に泣いていることが悟られぬよう、俯かず前だけを見て・・・
晃汰の異動が連絡されてからと言うもの、メンバー達のモチベーションはだだ下がりだった。直後のレッスンではミスのオンパレード、個人撮影のある者は思うような表情を作れずに、小説を執筆中の高山はスランプに陥る事態となった。
「こればっかりは、メンバー各々が乗り越えてもらうしかない。もう俺たちの知ってる晃汰はいないんだから・・・」
八方塞がりの今野は、言い聞かせるように徳長と自分を何度も律する。そんな時、徳長のスマホが震えた。
「良いよ」
今野は席を外そうと立ち上がり、徳長は見知らぬ番号からの着信に応じた。時間が解決するだろうと浅はかな考えを抱く今野だったが、徳長の突拍子も無い声でその動きが止まった。
「お前、今何処にいるんだ!?」
部下の通話相手は分かってはいなかったが、その大きな声と口調から今野はある人物を期待した。部屋を出ようとした今野だったが、徳長の電話が終わるのをいつしか待ち構えていた。
「アイツか?」
今野は恐る恐る徳長に問うた。
「アイツです、話したい事があるって・・・」
徳長はスマホを握ったまま答えた。
「・・・頼んだぞ」
今野は徳長の肩をたたき、部屋を後にした。