AKBの執事兼スタッフ 2 Chapters - 第8章 48or46
70 Storys 〜Never Say Goodbye〜
「短い間でしたが、お世話になりました」

 ピッチリとスーツを着込んだ晃汰は、多くの乃木坂社員の前で深々と頭を下げた。彼は一心に頭を下げ続け、拍手が鳴り止まない。彼の面倒を見ていた徳長の眼は既に赤くなっており、それを見た晃汰自身も目頭が熱くなる。

「メンバーには本当に挨拶しなくていいのか?」

 群衆が散会した後、徳長は晃汰に本当に良いのかと問う。

「いいです、辛くなるので」

 伏せ眼がちな体勢のまま、晃汰は徳長に答える。そうか、と徳長はそれ以上晃汰に質問をすることはなかった。

「ただ・・・」

 一旦を間を置いた晃汰は、徳長に頼みを聞いてもらう。それは、最期に人知れず“同僚”達の勇姿を目に焼き付けておきたいというものだった。

 今日は選抜メンバーが新曲のダンスレッスンの為、レッスンスタジオからはシューズと床が擦れる音が聞こえてくる。晃汰が最期に乃木坂46に遺したシングル『Sing Out!』が漏れて聞こえてきた為、晃汰は思わずハンカチを手にした。この空の下にいる孤独な人に、そしてどこか自分自身に言い聞かせるかの様な歌詞に込めた晃汰の思いは、乃木坂の連中にも届いてるのだろうか。

「もう踏ん切りがつきました。行きましょう」

 何かに納得したかの様に何度も頷きながら、晃汰は徳長と共にスタジオを後にした。

「徳長さんに、晃汰・・・?」

 ちょうど休憩時間になりスタジオから出てきた齋藤飛鳥が、運悪く彼らの後ろ姿を見てしまった。その時は特に何も感じなかった齋藤だったが、後々にその意味に気づいてしまうのである。


 ・・・晃汰がAKBに戻って数日が過ぎた頃、乃木坂メンバー内では彼の不在が多過ぎることに対する不満が募っていた。

「どうしたんだろうね、晃汰さん・・・美波、何か知ってる?」

 『Sing Out!」のMV撮影が行われているこの日、久保史緒里が隣でメイクアップをする梅澤美波に問う。

「え・・・!?いや、ど、どうしたんだろうね・・・」

 真相を知っている梅澤は答えに困りながらも、必死にかわすのであった。だがそこに、更に齋藤飛鳥が一石を投じる。

「この間、振り入れしてる時に徳長さんと歩いてるの見たよ。なんか珍しくスーツ着てたよ」

 長い髪をとかしながら、齋藤は後輩二人に目撃情報を共有した。顔色が悪くなっていく梅澤を心配し、齋藤はすかさず声をかける。

「まったく、年下にこんなに気使わせやがって・・・電話してやろ」

 そう言って齋藤は自身のスマホを取り出す。一方では久保が梅澤の肩をさする。

「え・・・!?」

「どうしたんですか?」

 齋藤の絶句に、久保は即座に反応する。対して齋藤は恐る恐る二人にスマホの画面を見せる。

「晃汰のLINEが消えてる・・・」

 絶望の闇を眼に宿す齋藤と久保とは対照的に、梅澤は目元を両手で押さえて俯いた。

■筆者メッセージ
珍しくアンハッピー(?)に展開にしようかなと
Zodiac ( 2019/06/23(日) 22:03 )