AKBの執事兼スタッフ 2 Chapters











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第6章 東京ドーム
59 Storys 〜LAST〜  
いつもよりもスポットライトが落ち着いて見えるのは、きっと涙がバレないように着用しているサングラスのせいだと晃汰は思い込んでステージ脇に待機している。表では既に彼が手がけたSEが流れており、演者が登場するのももはや秒読みである。

「バックバンド組、お願いします!」

声高らかにスタッフがバンドにタイミングを伝える。晃汰は勢いよく一度屈伸をし、ステージに伸びる階段を勢いよく駆け上がった。

今日の一発目も「制服のマネキン」である。シンセサイザーがメロディの大部分を占め、ダンサブルなこのナンバーを晃汰はクッキリとしたギターサウンドで対抗する。時折混ぜるトリッキーなカッティングは、もはや彼の持ち技となりつつある。

曲ごとにギターを変え、晃汰は乃木坂の、二人のステージに華を添える。そのギタープレイに強引さを感じるほど、彼は力んでギターをかき鳴らしていた。いつもは剥がれる事のない爪のコーティングはとっくに剥げ、徐々に爪が削れていく。そんな事も御構い無しに、晃汰はただひたすらにギターを奏でる。

残曲が一曲、また一曲と少なくなるに連れ、晃汰の頬には涙が伝う。サングラスでこそ紅い眼を隠せてはいるが、彼がどんな眼をしているかはもはや観客からも分かってしまっていた。アンコールのアップテンポな曲の後、「設定温度」と「乃木坂の詩」といった落ち着いた曲の際は、もう晃汰は泣き崩れていた。

一旦乃木坂たちはバックステージへと下がった。最後の曲を披露するために、大きなカーテンの後ろへとメンバー達は移動した。その間、バンド隊はステージ上に残って楽器の調整を行なっている。誰よりも先に調整が終わった晃汰はステージや花道の至る所に出向き、手を振ったり頭を下げたりとサービスを行う。そしてタイミングを見計らうと、開演からずっと付けていたサングラスを客席に投げつけ、定位置へと戻った。
キーボーディストが晃汰にアイコンタクトを送り、晃汰はそれにサムズアップで応えた。最後の曲「きっかけ」の綺麗なイントロが流れ始め、観客はどよめいた。晃汰はあえてアコースティックギターに持ち帰る事はなく、流れるようなクリアサウンドで伴奏を行う。カモフラージュの大きなカーテンが落ち、ライブTシャツにスカート姿のメンバーがお披露目になる。キャプテンの桜井が名残惜しそうに観客に呼びかけ、唄い出された。

メンバーの泣き顔を見て、晃汰ももう我慢の限界だった。両手を使って演奏するため、涙を指で拭うことが出来ず、晃汰の頬は常に濡れている。だんだんとメンバー達は主役の伊藤と中元に歩み寄っていき、団子状になって二人の卒業を惜しむ。生駒がその中にギタリストを引き込もうとしたが、晃汰は首を横に振って遠慮をした。

歌唱パートが終わりピアノのアウトロが流れる中、伊藤と中元の両名が手を繋いでメンバーから離れメインステージへと戻ってきた。その途中、晃汰はステージの真ん中で彼女らを待ち構えた。メンバー達に背を向けた瞬間からギタリストに視線を合わせていた二人は、彼の前で歩を止めた。

「お世話になりました」

イヤモニを外してギターを横にズラした晃汰は、地声で彼女らに挨拶をして深々と頭を下げた。そんな歳下ギタリストの頭を優しく二人は撫でた。顔を上げた晃汰は、二人と固い握手をして彼女らを見送った。

最後の曲が終わり、バンド組も楽器を下ろしてメインステージに集結した。最後に桜井キャップの一声で演者全員が客席に頭を下げて、乃木坂46の東京ドーム公園は完了となった。




■筆者メッセージ
やっと東京ドーム編が終わりました
Zodiac ( 2019/05/29(水) 16:37 )