AKBの執事兼スタッフ 2 Chapters - 第6章 東京ドーム
58 Storys 〜パイやん〜
東京ドーム公演の最終日、それは乃木坂46から二人のメンバーが去る事も同時に意味していた。連日、何とも言えぬ涙を流していた晃汰は、この日はもう悲しみだけの涙を流すのであった。
リハーサルの時もブレイクタイムの時も、この日の晃汰は頑なにメンバー達と接触する事を拒んでいた。自分の涙を見られたくないと言う事と、メンバーの屈託のない笑顔をみると、堪えているものが溢れてきてしまような気が晃汰はしていたから…

「晃汰、大丈夫かな…」

いつもとは異質な晃汰の言動を見ていた秋元は、同じく彼を気にかけている白石に相談をする。

「私も思った…ちょっと晃汰の控え室、行ってみようよ」

白石は秋元の手を引きながら、晃汰の控え室のドアをノックした。渇いた声が扉の向こう側から聞こえ、二人は中に入った。中では晃汰が洗いたての髪をそのままに、ライヴ用のアイメイクを施していた。

「どうしたの?今日…なんか変だよ?」

晃汰の背後に立った白石は鏡ごしに彼を見ると、その顔色を伺った。

「そんな事ないです、って言ったら嘘になりますよね…皆の顔見ると、泣いちゃいそうだったので」

平生を装ってメイクをする晃汰は、アイシャドウを塗り終えると同時に立ち上がった。その眼が少し紅くなっていることを、白石も秋元も見逃さなかった。

「辛いよね、メンバーが卒業するのってさ…」

そう言って、白石は晃汰の頭を優しく抱きとめた。

「まいやんさん、胸当たってる…」

「そう言う事は、今は言わなくていーの」

尚も白石は晃汰を抱きしめ、秋元は彼の髪を優しく撫でている。その間、晃汰は何度も大きなため息をした。そして自分の気持ちを整えた。

「まいやんさん、もう大丈夫です。これ以上は、いろいろとヤバいです」

「…ヘンタイ」

「勝手に押さえつけてるの、パイやんさんですからね?」

白石は笑いながら晃汰を解放すると、自分の胸元に付いたアイシャドウを指で払った。

「これで頑張れそうです。まいやん補給できました」

髪をかきあげて、晃汰は白石に礼を言う。

「次からは彼女にしてもらって」

「そんな事言って、まいやん満更でもないじゃん」

二人のやりとりに、秋元が割って入る。そんな秋元に白石はパンチを加える。

その後、秋石姉妹は晃汰の控え室を後にした。

「大丈夫そうだね」

秋元が横を歩く白石を見上げた。

「うん、芯は強い子だからね。ただ、卒業は私たちも辛いもんね…」

白石は眼を俯かせて返事をした。

「落ち着いたら、三人で飲み行こっか」

白石のこの言葉に、秋元は眼を極限まで細めるのであった。


■筆者メッセージ
だいぶお久しぶりになってしまいました。いろんな方の小説に触発されて、上品なエロ(?)を取り入れようかなと…笑
Zodiac ( 2019/05/29(水) 11:05 )