AKBの執事兼スタッフ 2 Chapters











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第6章 東京ドーム
57 Storys 〜BIG EGG〜
  「なんや、今日めっちゃ張り切っとるな」

 開演時間少し前、舞台裏で待機している晃汰に西野が声をかける。 

  「そんなことないですよ、いつも通りです」

 明らかに自分のテンションが高くなっていることを晃汰は自覚しているが、あえて平生を装う。 

  「ふ〜ん、なんか楽しそうやね」

 腑に落ちないような表情の西野を他所に、晃汰は軽やかにウォーミングアップのステップを踏む。 そして円陣を舞台裏でメンバーのみ、やがて全演者で行う。 

  「やっと、布袋さんの足下には来れたのかな・・・」

 晃汰は独りになると、今まで憧れ続けてきた人物達の、最後のステージを思い返した。 1988年の4月、BOOWYはこの東京ドームで”少し早い同窓会”をしている。あくまでも解散ライヴは前年の12月と当時のメンバー達はしており、”LAST GIGS”は同窓会のようなものと語っている。 それにしては完成度が高すぎるその伝説のライヴを、晃汰はビデオテープを文字通りにすり切れるほど見続けた。 氷室のマイク裁き、布袋のギターソロ、松井の肩の揺らし方、高橋のスティックを投げるタイミング・・・ それらすべて、晃汰の頭の中にインプットされている。 

 そんな思い入れのあるステージに立とうとしているこの時分、ギタリストは何とも言えぬ涙を流すのであった。

 球場内の照明が順に消えていき、演者も観客もいよいよといった雰囲気に飲み込まれた。 表舞台では毎度のことながら晃汰お手製のSEが流れ、レーザーライトが行き交う。 やがてSEが終わると同時に、今度は白煙が至る所より撒き散らかされ、舞台上が全く観客からは見えなくなった。 そんな中で、バックバンド組が静かに定位置につく。 タイミングを見計らい、バックバンドたちの真後ろに位置するライトが点灯し、幻想的な彼らのシルエットが浮かび上がった。 とりわけ、右手を高々と挙げる晃汰のシルエットは細長く、ギターと重なって幻像ともいうべき光景を演出していた。

 彼の右腕が下りたかと思えば、晃汰は両手を左右の耳に当てて観客を煽る。 場内の熱気が一気に上昇した時分、腹の底から響き渡るようなバスドラムがリズムを刻む。 それに合わせて晃汰は手拍子をし、更にファンを煽る。 そしてフラッシュモブ・・・ 「over ture」が生演奏で流れる中、警備員姿のダンサーがセカンドステージに上るのをきっかけに、至る所からフェイクのダンサーがセカンドステージで、手拍子を打つ。 観客が打つ手拍子の音が最高潮に達したとき、制服姿のメンバーたちが登場した。 一発目の曲は、「制服のマネキン」だった。

 東京ドームという最高の興奮剤のおかげで、晃汰は完璧に理性を失う。 ステージでギターを弾き倒すことに飢えた獣のように、自分が、そして他の演者が快感を得られるような演奏を彼は無意識に行う。 逆立てた髪とポニーテールが揺れ、晃汰のそのシルエットは1988年のホテイと全く同じであった。 あくまでもボーカルを活かすギターサウンドに至るまで、完璧にホテイを演じている晃汰は今夜、そのホテイとは違う輝きを放つことになる。

 いつものように衣装の長い裾をはためかせながら踊るギタリストは、普段よりもクレイジーさが増していた。 それもそのはずで、最愛の彼女がどこかで観ているとなると、燃えない男がいるだろうか。 CD音源とは丸っきり違ったギターソロに観客はどよめき、空間をも捻じ曲げてしまうような効果音に、メンバーたちのテンションも上がる。 

  「なんか今日、凄い張り切ってるね!」

 ひとつのセクションを終わらせて下がった舞台裏で、髪を乱した白石が晃汰の背中を軽く叩いた。 「彼女が来ているので」とは口が裂けても言えない彼は、自身のテンションを東京ドームのせいにしてその場をやり過ごした。 

 黒いコートを白の裾長に着なおした晃汰は、すぐにギターを肩からかけてスタンバイをする。 一刻も早くステージに戻りたくて、彼の身体は疼いているのだ。 

  「どうぞ!!」

 スタッフの一人が合図すると、晃汰は一目散に定位置へと駆けた。 バンドの再登壇にオアズケを喰らっていた観客は立ち上がり、声をあげる。 バンドの連中はそんな愛べき野郎たちに、右手を挙げて答えるのであった。 

 時間が経つのは早く、まるで球場内だけ異次元空間に迷い込んだ如く、あっという間に残曲が数える程度になった。 そんな寂しさも他所に、『おいでシャンプー』、『ロマンスのスタート』、『ガールズルール』といったアッパーチューンで観客を攻めたてる。 ツアーティーシャツ姿になったギタリストは、最後の力を振り絞って花道を縦横無尽に走りまわる。 もうフォーメーションの設定が無い為、メンバーも晃汰の後を追うように駆け抜ける。 

 そして二つのMCを挟み、『設定温度』と『乃木坂の詩』で東京ドームの初日は幕を下ろした。 

 終演後、関係者席で始終を観ていたバナナマンの二人が、演者を労いに関係者玄関に現れた。 冠番組を何度か見学している晃汰は彼らに気に入られ、個人的な付き合いをするようになっていた。 そんな二人が乃木坂たちと触れ合っているのを遠くから、晃汰は眺めている。 そして、一通り少女たちの激励を終え、バナナマンは晃汰らバンド組にも熱い言葉をかけた。 更に、晃汰とバナナマンは三人にしか聞こえない声で会話を始めた。

  「明日だな、いよいよ・・・」

 日村が複雑な表情で、年下ギタリストに語り掛ける。

  「もう見送るのは嫌ですよ」

 晃汰は肩を竦めた。

  「けど、マルがちゃんと見送ってやらねえと・・・ アイツら、踏ん切りつかないぜ」

 設楽も何か、こみ上げるものを堪えている。 

 そんな三人のやり取りを見ていた松村が空気を読んだ。

  「日村さん、設楽さん、マルちゃん! 集合写真撮るで!!」

 威勢のいい声に三人は笑みを零し、乃木坂たちの方へと足を運ぶのであった。


■筆者メッセージ
立て続けの投稿です、描きだめていたものを連投しています。
Zodiac ( 2019/01/05(土) 21:42 )