54 Storys 〜泥酔〜
普段は参加することのないギタリストがいるせいか、はたまた、“大きな卵”を翌日に控えているせいか、五人のメンバーはかなり酔っていた。 千鳥足にはならないものの、晃汰の助けなしでは真っ直ぐに帰れるのかさえも危ぶまれるほどだった。
「今夜はさ・・・誰かの家に皆で泊まろうよ・・・」
背骨が通っていないような歩き方をする桜井が、他のメンバーに向いて言った。 賛成の意思を伝えようと、連中はバカ丸出しで右手を挙げた。 そして、なにやら良からぬ空気を察した晃汰は、ばれずにその場を立ち去ろうとするが、衛藤と秋元が彼の両肩にもたれている為、晃汰の逃走劇は呆気なく終了となった。
飲んでいた場所から最も近い家は誰の家だという話になり、満場一致で衛藤宅という結果に至った。 そのことがより一層晃汰を身震いさせることとなったが、重症者を置いてさっさと逃げようと彼は考えており、率先してミニバンタイプのタクシーを拾った。
運よく六人が乗るタクシーは、衛藤が住むタワーマンションの地下駐車場に飛び込んだ。 近隣住人や週刊誌記者の眼をかわして六人は、衛藤の部屋へと上がり込むことに成功した。 晃汰を除く他の連中は何とか意識が戻ってきており、順番でシャワーを浴びる。 時間が勿体ないとのことで何人かは二人で浴室に入っていき、晃汰は考えたくもないことを考えさせられてしまった。
自分以外の全員が風呂場から出てくるのを見届け、晃汰は荷物を持って腰を上げた。 だが、ここでもエロ小説顔負けの展開が彼を待ち受けていた。
鍵を開けてドアを開こうとする晃汰の肩に、衛藤が顎を乗せた。
「今帰ったら、いろんな人に見られちゃうよ? 『あそこに住んでる乃木坂の人の部屋から、男が出てきた』なんて、言われたくないんだけど・・・」
「いや、凄く嬉しそうに『ウチ来る?』って誘ってきたの、美彩センパイですからね・・・? わたし明日もあるんでこれで失礼させていただ・・・」
晃汰が挨拶をしてドアを開けようとした瞬間、衛藤は彼の首に両腕を絡めて、チョークスリーパーの体勢に入った。 そして、目の前の晃汰の耳に熱い吐息を吹きかけた。 いろんな危機を案じた晃汰は、おとなしく衛藤とともにリビングに戻ったのである。
時計の針が真上を向く前、散々酒を飲んだメンバー達は、麻酔銃で撃たれたようにバタバタと意識を失っていった。 重症者の看病をしていた晃汰にも眠気が訪れ、スマホをいじっている衛藤にその事を告げた。
「リビングはもう寝れないから、私のベッドで寝ていいよ。 枕元にコンセントあるから、携帯充電しながら寝れるよ」
眠い眼を擦り、衛藤は自身のベッドルームに続く扉を指さしながら言った。
「いや、まあ、ここで寝るのも何ですけど・・・」
女子のベッドで寝ることに嫌悪感ではない拒否感を抱いた晃汰ではあったが、所狭しと倒れるメンバーの隙間を縫って寝ることができないことを悟って、彼は衛藤に礼と詫びを入れて彼女のベッドに倒れこんだ。 衛藤の言葉通り、枕元にコンセントがあり、晃汰は自前のケーブルとUSBの変換器を挿し込んだ。 そして、スマホの目覚ましをセットして眼を閉じた。