AKBの執事兼スタッフ 2 Chapters











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第7章 年末
63 Storys 〜年越し〜
 本年も残すところあと一日を切った。 大晦日の今日は、恒例となった紅白歌合戦で仕事納めとなる。 晃汰の出演はないが乃木坂46が様々な場面で出演するため、朝から彼女らに晃汰はついている。 昨晩のレコード大賞を受賞したことによって、メンバー達はどこか肩の荷が下りたような、清々しい笑顔を見せている。 それはギタリストにも言えることで、大賞受賞曲の作者という大層な肩書が、彼を今まで以上に大きく見せている。 

  「大晦日ぐらい、家でゆっくり過ごしてぇな・・・」

 自分の演奏がないもので、あまり仕事に意欲の湧いていない晃汰がブツクサ言った。 それをフォローするように、彼の隣にいる生駒が晃汰の肩を揉む。

  「そんな事言わないの。 皆で年越しそば食べるのが楽しいんだから」

 そう言いながら、生駒はギタリストの肩を強く揺すった。 そんなスキンシップに晃汰はいくらかのやる気を取り戻し、いつになくカジュアルなカーディガンの袖を直すのであった。

 全体を通してのリハーサル、乃木坂46だけでのリハーサルも終わり、晃汰はとうとう手持無沙汰になってしまった。 メンバー達とイチャイチャでもしようかとギタリストは考えたが、あまりにも周囲に関係者が多すぎることを理由に彼は自重した。 当てもなく一人で彼が彷徨っていると、乃木坂46が一番お世話になっている方々から、晃汰に直接連絡が入った。

  「みんなには内緒だけど、特別にお前には事前に知らせとくよ」

 バナナマン専用の控室に入った晃汰は、神宮公演から馴染みのある衣装に身を包んだ日村勇紀と、いつもの冷めたような眼をしている設楽統に合流した。 設楽は、奥の方でダンスの確認をする日村を横目にやりながら、事の成り行きを若きギタリストに説明をする。

  「テレ東の番組でやらしてもらってその後は神宮で、最後に紅白で三部作完成ってわけ」

 どこか嬉し気に話す設楽は、日村と目の前の晃汰とを交互に見る。 やはりその奥では日村が『インフルエンサー』の練習をしており、晃汰が初めて見た時よりも格段に日村のダンススキルは向上していた。 

 バナナマンの二人と晃汰との出会いは、晃汰が乃木坂に加入してから数週間後の『乃木坂工事中』の収録現場であった。 晃汰が初めての挨拶としてバナナマンの楽屋に行ったことがきっかけで、その後は何かとその三人で飲みに行ったり、メンバーを何人か混ぜて食事に行ったりしている。 いつしか晃汰はバナナマンの『公式弟』となり、彼らは乃木坂に革命をもたらすこのギタリストを大層可愛がっているのである。 
 
 そんな『公式兄弟』は束の間の再開を終え、晃汰がバナナマンの控室を辞去した。 談笑ですっかり熱くなってしまった晃汰は、ハンカチで顔を仰ぎながら廊下を歩いた。 彼が廊下を流せば、いたるところから声がかかってしまう。 それを最初こそ心地よく思っていた晃汰ではあったが、次第にその感情は嫌悪感と姿を変えていく。 後の彼によるマスメディア嫌いへの引き金は、この時に引かれていたのかもしれない。

はたして、五時間にも及ぶ生放送は無事に終わりを見せた。 昨日のレコード大賞とは打って変わり、晃汰も心の底から乃木坂メンバー達を応援することができた。 ヒム子はやはり乃木坂46と一緒に踊り、取り囲むメンバー達のイキイキとした表情が、視聴者にも晃汰にも印象的だった。 
 
 放送終了後、演者たちは各々、来るべき新年にそなえていた。 晃汰は半年を共に過ごした盟友達と手を繋いで円陣を組んでいる。

 「みんな、今年も一年間ありがとう。 来年もいっぱい笑おうね!」

 今年最後の言葉は、やはりキャプテンである桜井玲香が務めた。 来年、俺はもうこの人たちと年越しはできないんだろうな・・・ そんな晃汰の不安を察したかのように、彼の左手を握る西野七瀬の右手が力強くなる。

  「いま、変なこと考えたやろ・・・ 来年も良い曲作ってや!」

 自分の左眼に映る西野に口元を緩めた晃汰は、何度も彼女に無言でうなずいた。 そして年越し、新しい年が明ける瞬間。 人手で繋がった乃木坂メンバーと天才ギタリストは、空中で旧年に別れを告げて新しい年を迎えた。 


Zodiac ( 2018/03/07(水) 20:29 )