AKBの執事兼スタッフ 2 Chapters











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第5章 47人目のギタリスト
42 Storys 〜遠い存在〜
  「何してるの? ひとりで」

 怪しげな眼を浮かべた衛藤が、熱気を冷まそうとしている年下男子を真っすぐに見つめ、佇む。 氷室京介を彷彿とさせるシースルーシャツを夜風になびかせる晃汰は、落ち着いた表情で彼女に返事をする。 

  「熱いんで外出ちゃいました。 美彩姉こそ、どうしたんですか」

 顔を手で仰ぐ仕草をした晃汰は、衛藤に質問返しをする。 

  「私も、熱いからちょっと休憩。 晃汰は二次会行かないの?」

 乱れた前髪を右耳にかけた衛藤が、ギタリストを誘う。

  「明日運転しないとなんで、今夜は一次会で帰ります。 美彩姉さんはどうぞ二次会へお進みください」

 冗談を交えつつ、晃汰は色気たっぷりの衛藤に答える。 彼女は白い歯を見せながら、再び首筋を露わにする。 その様子に晃汰は息を飲み、衛藤が一体何を企んでいるのかが詠めないでいる。

  「今まで味わったことのないぐらい、激しい夜にしてあげるよ」

 そう言われて衛藤に晃汰が連れられたのは、演者や関係者らが宿泊するホテルのバーだった。 なんと衛藤も二次会を断っており、その後になって飲み足りなさを感じ、適当な人間(ギタリスト)を捕まえたのである。 晃汰からしたらいい迷惑だが、美女の誘いを断る選択肢など、彼に残されていない。

  「さっきは随分なあちゃんと楽しそうに話してたね」

 カウンターに隣同士で座った二人の会話は衛藤から始まった。 

  「七瀬さん、たぶん酔ってましたよ。 あんなに積極的に喋る七瀬さん、見たことないです」

 少し嬉しそうに口元を緩めたギタリストは自身の右側に座る、至って健全な肌の見せ方をする衛藤に答える。 蒼いカクテルを口に含む衛藤の横顔に、晃汰は女性らしさを感じ、目の前に置かれた紅く澄んだ液体を堪能する。 

  「もしかして、妬いてるんですか?」

 顔だけを衛藤の方に向けた晃汰は、隣の美女に悪戯な笑みを受かべる。 苦笑いをした衛藤は、一口カクテルを煽って答える。

  「・・・うん」

  「え!?」

 予想外の答えに、ギタリストは思わず言葉が続かなかった。 平生を装うために残っていた僅かなアルコールを飲み干し、晃汰は再び衛藤を見た。

  「・・・変な冗談言うとプールに投げ込みますよ?」

 新しく注文したミルク多めのカルーアミルクを舐め、晃汰は衛藤に忠告をする。 対する衛藤は正面だけを見てカクテルを口にするだけだったが、再びうるんだビー玉のような眼をギタリストに向けた。

  「冗談じゃないよ。 ちょっと、晃汰が他の子と話してるのがズキッときただけ」

 優しい笑顔を向けてくる衛藤に、晃汰はまだ黙ったままである。

  「なんだろうね。 恋じゃないんだけど、なんか、晃汰のこと気になっちゃうんだよね。 あの日から・・・」

 ”あの日” 晃汰はすぐに察した。 自分が酔いつぶれて衛藤の部屋で彼女と白石に世話になった夜のことだと、彼は確信をした。 朝、自分の腕に衛藤が絡みついていたのも、彼女が自らしたことなのだと晃汰は推測した。 

  「美彩姉さん、俺は・・・」

  「大丈夫、そういう関係になれないのは知ってる。 それに、晃汰には大事にしなきゃいけない子がいるのもわかってる。 ただ・・・」

 語尾を濁した衛藤は再びカクテルで喉を潤し、続ける。 晃汰はじっと黙ったまま聞き入る。

  「あの日、あの夜から晃汰の事が気になっちゃってさ。 親戚の義弟みたいな感覚でさ。 甘やかしたくなっちゃうの」

 いつにも増して衛藤の色気が増しているように、晃汰の眼には映っている。 恐らくバー店内の落ち着いた照明と、少し肌の露出が多い彼女の私服がそうさせているのだと晃汰は強引に納得をする。 だが、酒が入っているせいもあってか、晃汰はいつものペースを崩さずにいられている。 今だって、衛藤の誘惑に涼しい顔でいられている時分があるのが、晃汰にとって面白いのだ。

  「けど俺も男なんで、甘やかしすぎると、噛みつきますよ?」

 売り言葉には買い言葉。 衛藤の先ほどの言葉を宣戦布告と取った晃汰は、彼女に挑発で返す。

  「そういう所なのよ、みんなが好いてるのって・・・」

 衛藤は笑みを崩し、前髪をかき上げながら言った。 もっと違う所を好きになってほしかったなと晃汰は苦笑いを浮かべたが、女性に好かれる要素が一つでもあったことに嬉しさを覚えた。 ふと、森保は自分のどこが気に入ったのかとギタリストは気になり、翌日にでも電話をしてみようと考えたのである。

 約二時間で二人はカウンター越しのマスターに礼を言って席を立った。 代金は衛藤が全てを払うといって譲らず、晃汰は早速彼女に甘えることにした。 きちんと礼を言い、乃木坂の色気担当とギター担当は店を出て客室階へと向かった。 

 晃汰の泊る部屋は衛藤の泊る部屋よりも下のフロアにあるため、晃汰が先にエレベータを降りる。 降り際、晃汰は衛藤に再度礼を言って長い廊下に消えた。 一人になった衛藤は自身の部屋のフロア番号のボタンと「とじる」ボタンとを押した。 扉が閉まることを確認し、衛藤は壁と手すりに背中を委ね、大きくため息を吐いた。 

  「噛みつきますよ、か・・・ 相変わらず可愛いなぁ」

 店内で晃汰が言った言葉一つひとつを自分の頭の中でリフレインさせ、その度に自らの想いをきちんと伝えられたか自問自答を衛藤はする。 彼氏になってほしいわけではない、ましてや晃汰の身体が欲しいわけではない。 衛藤は純粋に晃汰の大きな安心感に寄り掛かっていたいのだ。 だから、彼が自信をなくして再起不能になっているときだって、ライヴの最中だって積極的にギタリストと、晃汰とコミュニケーションを図った。 だが、彼のことを知れば知るほど、遠い存在だということに衛藤自身が気づく。 年齢は自身よりも5歳も下だが、背負っているものややっていることはまるで自分よりも大きなものであり、その背中がより大きく衛藤には感じた。 

 そんな衛藤だが、晃汰を酔わせて・・・ なんてことは微塵も考えなかった。 もっと言えば、三人で寝たあの夜だって、強引に体を重ねることは難しいことではなかった。 しかし、衛藤はそんなことに全く興味はなく、ただ真っすぐに晃汰の成長、仕草を見ていたいのである。 近くにいながらも遠い眼で、時には過度なスキンシップも交えながら(笑)

  「よし、もう一杯飲もう!」

 目的のフロアを告げる音声がエレベーター内に響いたとき、衛藤は決心して強く頷いた。 

■筆者メッセージ
みなさまお久しぶりです。 お察しのとおり、美彩センパイです(笑)本当ならあんなことやこんなことをさせたかったのですが、この小説はあまり官能シーンをいれたくないもので、ごめんなさい!
Zodiac ( 2017/12/26(火) 23:13 )