AKBの執事兼スタッフ 2 Chapters











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第4章 坂シリーズ
39 Storys 〜神宮完了〜
 雷雨の野外ライヴ。 晃汰のテンションを壊すには申し分のないシチュエーションだった。 音の出なくなったメイン器を真っ黒のテレキャスターに持ち替え、ほとんどをジッとしていることなく、ステージを縦横無尽に動きながらギターを弾く。 そんなギタリストの咆哮に、乃木坂メンバーは喉を枯らす勢いでシャウトをする。 可愛らしい歌声や可愛らしい仕草をとっくに諦め、彼女たちは雨水で思考回路がショートしたようにロックアイドルと化してしまっている。 

  「神宮、まだまだいけるぜ!」

 普段の西野からは想像ができない大声が神宮球場にこだまし、それに応えるようにペンライトが激しく揺れる。 もう何度もこういった光景を晃汰は見てきたが、何回体験しても飽きず、むしろ身体が、心が欲する。 重度のライヴ中毒に陥っているギタリストは熱いステージ、ましてや雨が降りしきる野外で、とっくに理性を失っていた。 狂ったギタリストが笑顔でギターをかき鳴らせば、メンバー達は一層の笑顔で返す。 薄手のワイシャツは雨水で透け、晃汰お気に入りの黒のタンクトップが浮き出たところで、ギターチェンジの間に脱ぎ捨ててタンクトップ一枚となる。 程よく鍛えられた二の腕が露わとなり、彼の左の肩に張られた乃木坂のタトゥーシールが披露された。 

  「あっついゼ、神宮・・・」

 アンコールが終わり裏に引き下がった晃汰は、長い後ろ髪を縛りながら言った。 近くにいた西野が慣れないポニーテールに悪戦苦闘する晃汰の代わりに、彼の髪を縛ってやる。

  「縛るくらいなら切っちゃえばええのに」

 出来上がったギタリストの髪形を見ながら、西野はボソッと呟いた。

  「俺の好きなギタリストが昔やってたんですよ。 それの真似です」

 苦笑いを浮かべ、西野に礼を言いながら晃汰は答えた。 そんな西野ではあったが、晃汰の後ろ髪を揺らして遊んでいる。

  「とか言いながら、他人(ひと)の髪で遊んじゃうんですね」

 最後の衣装のライヴティーシャツをタンクトップの上から着ながら、ギタリストは鼻で笑う。 それでも止めない西野を諦め、彼はしばらくそのままでいた。 


  「ラストアンコールの前にサプライズ発表があるから」

 ちょうどスタンバイ位置が同じになった橋本に言い渡され、晃汰はバックバンド組と一緒にバックヤードで待機をしている。 表ではメンバー達による最後のMCが行われている最中だ。 

 ツアー最終地に東京ドームが決定した。 モニタを見ずに、メンバーの言葉だけで察した晃汰は、さほど驚きもせずに黙々とストレッチをこなす。 東京ドーム公演の頃には、きっと自分はAKBに戻っていて、今のメンバー達と歓びを分かち合えないだろうと晃汰は息を吐いた。 表では相変わらずメンバー達の声とファンの歓声とが、異常なまでに響いている。

 そんな中、ダッシュでステージから戻ってきた生駒が、待機するギタリストの腕を強引に引っ張り、ステージまで連行した。 

  「丸ちゃん、東京ドームもよろしくね」

 ほぼステージの真ん中に立つ桜井が、マイク越しにギタリストに声をかける。 当初、晃汰は何が何だか訳が分からなかった。 そんな彼に、隣に立つ堀未央奈がモニターを見るように指さす。 そこには、東京ドーム公演に出演するバンドメンバーの名前が記されている。 自分の名前が Guitarist の文字の下にある事が信じられず、晃汰は笑いだしてしまった。 その笑いは次第に涙交じりになり、彼は目元を抑えて俯いた。 念願であった東京ドーム公演が決まったことで涙するメンバーも多い中、いろんな感情が混ざり、加入して数か月のギタリストも同じように涙を流す。 

  「ほら、早くギターとってきなよ!」

 涙を拭いた若月佑美が、涙にくれる晃汰の肩を強くたたく。 大きく頷き、裾で涙を拭いながら彼はステージから消えた。 こういう時に男気(?)を発揮する若月に晃汰は頼もしさを感じ、大きく深呼吸をして自らの頬を叩いてギターを提げた。 まだあの人たちと歓びを分かち合える・・・ まだあの人たちとプレイできる・・・ まだあの人たちの曲を作りたい・・・ 今以上の期待を膨らませ、晃汰は走ってステージに戻った。

 『ロマンスのスタート』と『ハウス!』で二日間の神宮は幕を閉じた。 どちらもメンバー達は好きなようにステージに広がり、思い思いの煽りとアクションでダヴルアンコールをめいっぱい楽しむ。 盛り上がる曲なのに、ギタリストは眼を真っ赤に腫らしながらギターを駆る。 まだ乃木坂と思い出を共有できる楽しみが延びたと考えるだけで、晃汰の胸はいっぱいになり涙がこみあげてくる。 涙のせいなのか雨水のせいなのか、視界が晴れないままギタリストはダヴルアンコールも終え、ピックを客席にまいた。 愛器をローディーに託し、メンバーとともに花道をメインステージへと歩く。 前日同様、桜井キャップの号令で演者は観客席に頭を下げた。 鳴りやまない拍手に歓声に浸りながら、メンバー達はステージを降りていく。 晃汰も全方向の客席に深々とお辞儀をし、サイリウムとタオルを必死に振るファンに背を向ける。

  「お疲れ、ギタリスト君」

 雨と汗で髪を崩した橋本が、タンクトップ姿になったギタリストに近づく。 密着取材用のカメラがないことを確認し、晃汰は橋本とハグをした。 1週間後ぐらいには卒業を公式に発表する橋本は、どこか肩の荷が下りたように清々しい笑顔をしているように晃汰には映った。

  「ちゃんと最後までできたじゃん」

 リハーサル期にメンタルケアをしてやった白石は、晃汰の肩を組みながら彼の労を労う。 ライヴティーシャツの袖をさらに捲るものだから、白石の二の腕は普通よりも露出していて、そんな彼女の肌と自分の肌が密着するものだから、晃汰は違う意味でドキドキしてしまった。

 終演後、またしてもジュースとお菓子のとりあえずの打ち上げが盛大に行われた。 1時間ほどで会は終了し、その後は行ける人で二次会へという運びとなった。 もちろん晃汰に拒否権を与えることなど、衛藤が許さなかった。 愛車を置いて呑みに行くわけにもいかないので、晃汰は京介をわざわざ神宮まで呼び出し、86を預けて夜の街へと消えていった。

■筆者メッセージ
やっと神宮編が終了しました。 二次会の描写も書こうかな〜とは思ってますが、おいおい書いていきます(笑)
Zodiac ( 2017/12/02(土) 22:08 )