AKBの執事兼スタッフ 2 Chapters











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第4章 坂シリーズ
37 Storys 〜激しい雨が〜
 開演時間を少し過ぎ、ギタリストはお馴染みのギターを携えてメンバーよりも一足先にステージに上がる。 軽やかな足取りのまま、ギタリストは自身の定位置についた。 ローディー(ここでは主に、ギターの受け渡しやサウンドシステムの制御などを担当)からギターを渡され、晃汰は小さく揺れた。

 セットリストは前日と変わらないが、晃汰は前日の反省をしっかりと生かした演奏を繰り広げている。初日よりも随分と緊張が解けた三期生が、自らクレイジーギタリストの近くに寄っていき、それに気づいたギタリストも眼を合わせながらステップを踏む。 晃汰の背中に水鉄砲を撃った衛藤は、今日は彼の足に水を発射した。 それは
昨日の終演後に、彼から水をかける位置についてかなり本気な説教が衛藤にあったのだ。 
  「もう少しズレていたらワイヤレスレシーバーやギターに当たっていたから、気を付けてほしい」 

 笑いながらも晃汰の眼には怒りがこもっていたから、そんなこともあって衛藤は今日は自重気味に彼にちょっかいを出した。 

 一期生のセクションが終わりを迎えようとした頃、突如として雷鳴とともに雨が降り始めた。 曲中であった為、また、あと数分でとりあえずの段落を迎えることから、ステージ上の演者は意図してパフォーマンスを中止させなかった。 衛藤の水鉄砲に注意をした晃汰ではあったが、雨水にギターが晒されることに関しては無頓着で、そのことに関して衛藤に後ほど怒られることとなる。

 ひとまず演者はバックステージに下がり、タオルで濡れた身体を乾かす。 ギタリストは自分よりもまずギターを心配し、自分よりも先にギターの水滴をふき取っている。 そうこうしているうちに、雨は激しさを増し、雷鳴の回数が増える一方である。 舞台監督の判断で、観客を球場屋内へと一時避難をさせた。 メンバー達は必死な思いで暗黒の空に祈りを捧げ、ライヴの再開を静かに待つ。 ギタリストはどこからか持ってきたパイプ椅子に腰かけ、入念に指のストレッチを行っている。 

 中断時間は三十分を過ぎ、バックヤードにも不穏な空気が流れ始める。 ダンスの確認をするメンバー達にも焦りの表情が現れ始め、周りのスタッフ連中はそそくさと裏側を走っている。 逆境に何度も直面をし、乗り越えてきた晃汰でさえも、この中断は長く感じていた。 

  「これ以上、ファンを待たせられないですよ・・・ ファンを試しているみたいで、申し訳ないですよ」

 三監督が舞台袖で協議をする。 舞台監督が重い口を開き、最悪のシナリオを説く。 だが、そんなことを百も承知のバンド監督は、真っ向から反対する。 

  「今中止にしてしまえば、待ってくれていたファンに申し訳が立たない。 雨の野外なんて、これ以上ない最高のシチュエーションだ」

 後戻りできないことを示唆し、傍らに待機する乃木坂メンバーに晃汰は眼をやる。

  「楽器隊は雨のかからない場所にいるので問題ないです。 あとは、メンバーの集中力が続くかどうかです」

 音響監督も自ら退路を断ち、最後の判断を舞台監督に委ねた。 眼を閉じた舞台監督は、カッと眼を開いて晃汰の肩を叩いた。

  「二十分後に再演だ。 メンバーにはお前が伝えてくれ」

 ニヤッと笑いながら、舞台監督はギタリストにそう言った。 了解です。 晃汰は頷いた。

 事の成り行きをメンバー全員に説明をし、更に、彼女たちを乗せる言葉を晃汰は選ぶ。

  「雨に打たれながら歌って踊れるアイドルなんて、素敵だと思いませんか?」

 同士にこんな言葉をかけられてしまえば、彼女たちのテンションは上がるに決まっている。 闘争心むき出しの眼をした美少女たちは、乾ききっていない髪を揺らしながらステージに出ていった。

 

■筆者メッセージ
意外と神宮編が長くなってしまいます・・・
Zodiac ( 2017/11/14(火) 21:55 )