AKBの執事兼スタッフ 2 Chapters - 第4章 坂シリーズ
35 Storys 〜初日突破〜
  観客がメンバーの再登場を待ちかね、何度もコールが沸き起こる。 そんな舞台裏では、メンバー達が笑顔でスタンバイをしている。 バックバンド組も同じ場所で待機をしていて、あと数曲で初日が終わってしまう切なさを数名が吐露している。

  「まあ、明日もありますから、シャキッとしてください!」

 映画『あさひなぐ』の紺野さくらに若干寄った松村が、次の曲になぞらえてメンバーを鼓舞する。 そんな光景に晃汰は笑ってしまい、上機嫌で自分の番でもないのにステージへと飛び出していった。 

 最後は『シャキイズム』『オフショアガール』、そして『乃木坂の詩』で締めくくった。 最終の『乃木坂の詩』をペンライトを振りながら歌っていたメンバー達は、わざわざメインステージにまで移動し、この神宮ライヴに大きく貢献したギタリストを迎えに行った。 え!?というギタリストの表情をよそに、桜井や西野が彼の腕を引っ張ってセカンドステージまで晃汰を連行した。 真っ黒いギターを奏でるギタリストに観客はコールをし、対する晃汰は手を振りながら応える。 

 無事に全セットリストが終了し、演者全員で客席に頭を下げた。 ギターを脇にずらしたギタリストも深々と頭を下げ、汗で濡れた髪をかきあげた。 鳴りやまない拍手に何度も一人だけ晃汰は頭を下げ続け、そのことがより一層拍手を止ませない。 やっと頭を上げた晃汰はフッと息を吐き、握っていたピックを客席に飛ばした。 弧を描いて観客の間に吸い込まれていく自身のオリジナルピックを見届け、傍らに待機していたスタッフが彼のギターを受け取ろうとしたが、晃汰はそれを優しい笑顔で拒否をして、メインステージへと歩むメンバー達の後を追った。 彼女らに交じりながら客席に手を振り、ギタリストは感謝の言葉を地声でファンに伝える。 

 メインステージで横一列に並んだ演者たちは、桜井キャップの号令で一斉に頭を下げた。 ギターを外した晃汰もお辞儀をし、外様の自分を受け入れてくれたファンに対して感謝をする。 徐々にメンバー達がステージを降りる中、晃汰はひとりマイクを持ってステージの真ん中に立った。 そして、大きく息を吸ってファンに向けて挨拶をした。

  「こんな外部の人間でも温かく迎えていただいて、ありがとうございます。 また明日もあるんで、宜しくお願いします。 今日は、ありがとうございました!」


 達成感と安堵感の入り混じった笑顔をしたギタリストが、大勢の観客に向かって頭をさげた。 その光景を舞台袖から数名のメンバーが見守っており、その中には卒業を決意している橋本や、彼のメンタルケアを担当した白石や衛藤の姿もあった。 両手を振って笑顔で熱い客席に背を向けたギタリストの背中にライヴタオルがかけられ、スタッフ演者を問わずに晃汰は労いの言葉を受け交わす。 
 
 やがて乃木坂メンバーともギタリストはハイタッチを交わし、余韻に浸る。 ほとんどのメンバーとの写真に写り、また、バックバンド組とも写真を撮りあって終演後特有の空気を堪能している。 その後、ジュースだけのささやかな初日の打ち上げがあり、初日は無事に終了した。 成人連中も次の日の為に呑みの席は設定せず、解散となった。 ギタリストもシャワーを浴びたらすぐに愛車に乗り込み、自宅目指してアクセルを吹かすのであった。 

■筆者メッセージ
雨が続きますね・・・ 野外ライヴの雨は個人的に好きな描写なので、次回はそれも入れたいなと思ってます!
Zodiac ( 2017/10/22(日) 15:01 )