AKBの執事兼スタッフ 2 Chapters - 第4章 坂シリーズ
32 Storys 〜前日リハーサル〜
 神宮本番が翌日に迫ったこの日、初めて本番のステージで全体リハーサルが行われた。 一部のエフェクターシステムの変更以外、晃汰はスタジオリハーサルと同じ環境でこの最終リハーサルに臨む。 

 午前8時、関係者専用駐車場に情熱の紅を纏った86が滑り込んだ。 用意されたスペースに素早く駐車をすると、わずかな荷物を持って晃汰は控室へと向かう。 今日から本番が終わるまで、晃汰はアーティストモードに切り替わっている。

 専用の控室に入った晃汰は、荷物を置いてすぐさまステージに向かった。 すでに昇っている朝日をサングラス越しに睨み、定位置の舞台下手へと向かう。 スタンドにかけられている布袋モデルを提げ、すべてのエフェクターを起動させる。 数分後、チューニングを施したギターを叩き、いつもの晃汰のサウンドが大きなスピーカーから鳴った。 ソロ用の少し激しい歪みサウンドから、繊細なクリアサウンドまでを確認したギタリストは、真っ黒いテレキャスターにスイッチして違うサウンドを確かめる。 三本目の偽イティスのサウンドも確認し終えたところで、ギターをスタンドに戻してPA席へとギタリストは向かった。 サウンドエンジニアと音響的な会話を交わし、最後は握手をしてステージへと戻った。 

 晃汰の独りリハも30分を過ぎると、徐々にバックバンドメンバーや乃木坂メンバー達がステージに上がってくる。 ギタリストはワイヤレスの状態を確認するために、ステージから伸びる花道を所狭しと歩き回っている。 

 午前9時、裏方を含む今回のライヴに出演する者たちが、一堂に舞台に会した。 まずは舞台監督が挨拶をし、次に音響監督が音に関する内容を話した。 バンド監督の晃汰のスピーチは当日までお預けである。 

 オープニングのSE(Sound Effect)は、今回も晃汰がリミックス、アレンジを担当した。 乃木坂の楽曲の歌詞の載っていない部分のフレーズを、晃汰自ら演奏し、録音を重ねた『Greatest Nogizaka46's Medley』が、演者たちのイヤモニだけに流れる。 今回は野外会場の為、スピーカーから音が流せないのである。 であるために、メンバー達はイヤモニから流れる音を頼りに歌をのせる。

  リハーサルの時の晃汰は、本番での晃汰とは全く別人であり、踊りながら弾くスタイルをリハーサルでは、あまり動かずにサウンドを確認しながらキッチリと弾く優等生スタイルに激変する。 これにはメンバー達も驚いた様子で、曲間での確認時間に数名のメンバーが彼の調子を心配するほどであった。

 頭から最後まですべての流れを難なく終えると、1時を少し回った。 各セクション毎の確認は午後に回され、1時間ほど昼食タイムとなった。 豪華なケータリングが用意され、いろんなメンバーから届いた差し入れのお菓子なども一緒に置かれている。

  「どれも美味しそうだね〜」

 プラスチックのトレイを持って列に並ぶ晃汰が、独り言のようにつぶやく。 それを前後に並ぶ松村沙友里と生田絵梨花が聞き逃さなかった。 一瞬にして眼の色を変えた二人は、自分が気に入ったものを自らのトレイに乗せると同時に、何故か晃汰のトレイにものせていった。 お陰で晃汰のトレイはこれ以上皿が載らないほど、料理が詰め込まれている。

  「いや・・・ 残ったらりんごさん(松村沙友里)といくちゃんさん(生田絵梨花)で処理してくださいね?」

 重くなったトレイをなんとかテーブルに置いた晃汰は、上機嫌の松村と生田に注意喚起をした。 そんなこともお構いなしに、平然と盛られた料理を平らげると、二度目の食べ物探しの旅へと彼女たちは旅立った。 晃汰が苦しくなりながらも料理を平らげた両隣で、なんと松村と生田は三度目のおかわりを平らげようとしている。

  「あれ? 晃汰、今日そんなに食べてなくない?」

 フォークを使う速度はそのままに、生田は晃汰の前にあるきれいになったトレイを見る。

  「ほんまや。 晃汰、私のお肉あげるよ」

  「いや、もう本当にお腹一杯です。 ありがとうございます」

 喋るのも苦しいほど膨らんだお腹を撫でながら、晃汰は必死に松村と生田のご馳走攻めを回避した。 大食い美女二人が笑顔で手を合わせるのを機に、三人は席を立った。 歩いていくらかお腹がへっこんだ晃汰は、自身の控室に戻ってソファに身を委ねた。 大きく息を吐き、天井を仰ぐ。 

 そんなつかの間の休息をとろうとした時、部屋の扉をノックする音が響いた。

  「どうぞ、鍵開いてますよ」

 ドアの向こうの来訪者に晃汰は告げ、再びソファに深く腰掛ける。 少しだけ開かれた扉から、白石が顔をのぞかせた。 彼女が持つグローブとソフトボールに眼を奪われた晃汰は、少し前に彼女とキャッチボールの約束をしたことを思い出し、バッグから昔から使っている軟式用のグローブを取り出してステージに向かった。 

  「お手柔らかにお願いしますよ、まいやんさん!」

 機材がないセカンドステージに移動した晃汰と白石は、バッテリー間ほどの距離に広がった。 そして、ゆっくりとボールの行き来を始める。 中学時代にソフトボール部に所属していた白石は、まだまだ衰えない剛球を晃汰に投げ込む。 対する晃汰も、綺麗なバックスピンの効いた球を白石に放る。 そんな二人の楽しそうな様子に、自然とメンバーのみならず、裏方やバックバンドメンバーも集まってきた。 その楽しそうな様子を、西野が755に動画として投稿したのである。 瞬く間にネット上では大騒ぎになり、一時はヤフーニュースのトップにもなるほどであった。 

 午後のリハーサルは、午前中の反省点をおさらいすることが、主な内容となった。 相変わらず歌の才能が天才的な秋元の歌唱力に、西野が笑いだして演奏が中断したり、橋本が思いっきり歌詞を間違えるなどのアクシデントはあったものの、全体的に完成度はリハーサル時よりもブラッシュアップされていた。 彼女たちの後ろで弾いていた晃汰でさえも、その出来に鳥肌がたつほどであった。

  「じゃあ明日、宜しく頼みます!!」

 午後5時、すべての確認を終え、晃汰がコーラス用のマイクに大声で全メンバーに呼び掛けた。 それに応えるように、ステージ上からも裏方からも、拍手が鳴りやまなかった。 
  
 軽くシャワーを浴びたギタリストは、焼いたばかりの今日のリハーサル音源のディスクをバックに詰め、愛車へと向かった。

■筆者メッセージ
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Zodiac ( 2017/10/03(火) 23:05 )