AKBの執事兼スタッフ 2 Chapters











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第4章 坂シリーズ
28 Storys 〜アマチュアギタリスト〜
 午前5時のアラーム音で晃汰は眼を覚ました。 眠る前に隣にいた白石とは違う腕が、晃汰の右腕に絡まっていた。 重たい頭を持ち上げて確認すると、どうやら深夜のうちに白石と衛藤が入れ替わっていたようである。 ギタリストの利き腕に纏わりつくように衛藤は寝息をたてており、彼女を晃汰は揺り起こした。 衛藤が起きると、続いてソファで寝ている白石を、晃汰は起こした。 多少の頭痛は残ってはいるが、業務に支障をきたすほどの体調ではないなと、晃汰は身体中をほぐした。
  
 衛藤と白石が揃って朝食を作っているとき、晃汰は衛藤に断りを入れてシャワーを浴びた。 女子の部屋のシャワーを初めて借りた晃汰は、始終落ち着かない様子でシャワーを浴びていた。 

 髪をドライヤーで乾かした晃汰は、そのままの髪形でリビングへと戻った。 いつもならワックスで髪をセットをする晃汰であるが、あいにくセット道具は自宅にしか置いていないのだ。

  「セットしてない晃汰も可愛いねぇ」

 できたばかりの朝食を食卓に運びながら、衛藤は晃汰の頭を撫でた。 昨夜からギタリストの扱いが変わってきた衛藤に、晃汰は良い意味の恐怖を覚えながら、彼女らと朝食をいただく。

 衛藤達よりも早く衛藤の部屋を出た晃汰は、真っすぐに乃木坂の本部事務所へと向かった。 最近導入した、米映画『Top Gun』のトムクルーズと同じサングラスをかけ、ギタリストは市ヶ谷に向けて電車に乗り込む。

 晃汰に遅れること1時間、衛藤と白石がセレブ感満載の出で立ちで事務所に到着した。 本日は午前中のみリハーサルで、午後は個人取材や番組収録といった少数人数で動く形態となっている。 晃汰の午後は、高山一実・西野七瀬ペアと同行の予定である。

  「あ、丸ちゃん、午後よろしくね!」

 スケジュール表を確認する晃汰の背後から、元気な声が彼めがけて飛んでくる。 顔を見ずとも分かるその声に、晃汰は振り返って返事をする。

  「かずみんさんと久しぶりにご一緒できますね! よろしくお願いします」

 ニコニコ顔の高山とハイタッチをし、晃汰の機嫌は上々である。 いつものお気に入りの温かいココアを啜りながら、晃汰は誰よりも早くスタジオ入りしてセッティングを始めた。 こちらも最近導入したエフェクター『YAMAHA SPX50D』の鳴りを確認する。 BOOWY時代に布袋氏が愛用していた機材と同じ音が出ることで有名であり、晃汰もその同じ音を出したくて、ヤフオクで落札したのである。 この機材は常時使うものというよりも、効果音的要素で使う。 ギターソロなどで使用すると効果は抜群で、またひとつ晃汰の武器が増えたのである。 

  「あ、丸ちゃんおはよう。 今日、午後よろしくな〜」

 晃汰の次にスタジオに入ったのは西野であった。 スケジュールを確認済みの彼女は、午後は晃汰と行動を共にすることは既知であった。 

  「おはようございます。 宜しくおねがいします!」

 ギターを提げたまま、晃汰は西野に挨拶を返した。 西野は持っていたペットボトルの水を二口ほど飲み、ストレッチを始めた。 全体リハーサルの開始まであと30分ほどあるが、その後も続々とメンバーやバックバンドメンバーがスタジオ入りをする。 

 AM9:00、一人も欠けることなく全員がスタジオに集結した。 舞台監督と音響監督が短く挨拶をし、バンド監督という異例の役職を仰せつかる晃汰が三人目として、同様に短く挨拶をしてリハーサル開始となった。

 晃汰は今回のリハーサルに三本のギターを持ち込んでいる。 一本はお馴染みの布袋モデル。 当器の使用割合が最も高い。 続いて、こちらも布袋氏が愛用しているものと全く同じの、フェンダー社製の真っ黒いテレキャスター。 布袋氏の『バンビーナ』のPVで使用されている本器は、『何度目の青空か』や『命は美しい』といった、バラード調の楽曲で使用する。 残るは、これまた布袋氏愛用のゼマイティス社製の通称『ゼマイティス・ワイルド』と呼ばれるギターのコピー品である。 晃汰は『偽イティス』と呼んでいる。 この器は圧倒的なパワーを誇っており、他の二本よりもエレクトリックな音を得意としていて、『夏のFree&Easy』など、少しハードロックに寄ったサウンドを響かせたい楽曲に使用している。 

 これら三本のギターと、本人の足元と背後に広がる数多くのエフェクター(ここでは、ギターの音に音響的効果を与えるもの)とを組み合わせ、壮大なギターサウンドを晃汰は繰り広げる。 プロ顔負けのシステムを誇る晃汰にとって、自分の中では当たり前という風に本人は片付けてしまってはいるものの・・・

 3時間に及ぶ全体リハーサルは、いくつかの修正点を全員で共有して終了となった。 次回のリハーサルまで少し時間が空くため、晃汰は布袋モデルと主要なエフェクターボードを86のトランクに押し込んだ。 再び事務所に戻り、舞台監督と音響監督と短時間でミーティングを済ませ、高山と西野のもとへ向かった。


■筆者メッセージ
描きたいことがありすぎて、最近は長くなってしまいます(汗)
Zodiac ( 2017/09/18(月) 19:17 )