25 Storys 〜密談〜
アイドルとスタッフの飲み会は一軒では終わらず、二軒目は晃汰が知っている会員制のバーへと移った。 会員制なうえに個室を晃汰は予約したので、周りの客からみられる心配がない。 ここまで配慮したギタリストだったが、一杯目を飲み切る前にテーブルに突っ伏してしまった。
「本当に弱いんだねぇ・・・ 可愛い」
テーブルの向かいから腕を伸ばし、晃汰の頬をツンツンしながら衛藤は呟いた。
「まだ二十歳になって数か月だもんね、よく美彩について行ってた方じゃない?」
自身の着ていた上着を隣で寝るギタリストにかけてやりながら、白石は衛藤を横目で見る。
「けど、お酒自体はそんなに飲んでなかったけどね」
衛藤は笑いながら、カクテルのグラスに手を伸ばした。
「・・・こうしてまいやんと二人っきりで話すのも久々だね」
「ファンの人達の間だと、仲悪い感じになってるけどね」
白石は自嘲気味に笑い、蒼いカクテルを口に含んだ。
二人の話は自然と、橋本の卒業の一件に向かっていった。 同世代の橋本の卒業は、予想以上に彼女たちに自分の今後の進退を問う材料となり、どちらとも写真集が売れに売れてしまったから、どうしてもやり切ってしまった感情が頭のどこかにいるのだ。
「でも、まだ乃木坂にいたいんだよね・・・ やりたいことは他にいっぱいあるけど、乃木坂にいた方が楽しいと思う」
白石は衛藤に真剣な眼を向けて話し、衛藤も頷く。
「そうだよね。 私たちは年齢的にっていう時期にもなってきたけど、まだまだ乃木坂でバナナマンさんとかと一緒に番組やりたいよね」
ため息を吐きながら、衛藤は肩を落とし、白石も同情するかのように首を振る。
暫くの間、二人には沈黙があった。 話題に尽きたわけではなく、話しているうちに自身の今後について不安も期待も募ってしまい、まじめに考えていたのだ。
そんな時、寝ているギタリストが寝言を発した。
「・・・アンコール行きますよ、まいやんさん」 呆気に取られていた二人ではあったが、口元を抑えて彼女たちは笑った。
「私たちの為に頑張ってくれる人がいてくれるんだから、卒業なんてしてられないよね!」
豪快にカクテルを飲み干し、白石は決意を新たにする。
「私も、まだまだ乃木坂の衛藤美彩だよ!」
こちらも負けじと、何杯目かのカクテルを衛藤は飲み干す。 何杯目のカクテルだろう と、白石はふと思った。