AKBの執事兼スタッフ 2 Chapters











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第4章 坂シリーズ
21 Storys 〜お誘い〜
 メンバー全員を集めての打ち合わせから1週間が過ぎ、表題曲もカップリング曲も、ほぼ完成をしている。 仕事の合間に時間を作っては、液晶画面とイヤホンだけで晃汰は曲を作り出していた。 ただ、あくまでも記録としての作業であり、メンバー達に聴かせるデモテープは、晃汰がすべて生で演奏をしている。
 
 そして、晃汰もメンバーも納得のいくアレンジを施して完成となった。 レコーディングにはプロの奏者達を晃汰の人選で招き、彼が弾くのとは違った面白さのあるサウンドとなった。

 さらに1週間後、メンバー達の可愛らしい歌声が重なり、齋藤飛鳥の初センター曲”裸足でSummer”がここに誕生した。 乃木坂としては、秋元康が携わっていない初めての曲でもあり、水面下では不発とさえ囁かれていた。 だが、そんな一抹の不安もなんのそので、発表から瞬く間にセールスを伸ばし、話題性とともにバカ売れした。

  「基本的に裏方の仕事・・・ クリエイターとしての仕事は本分ではないので」

 スタッフ兼ギタリストへの取材はメンバー達よりもはるかに多く、ひっきりなしに依頼の電話が乃木坂本部にはかかってくる。 当然、会場の出入りを狙った記者が張り詰めてはいるが、そんな連中に晃汰は決まってこの言葉を投げつけるのであった。

 真夏の神宮公演まで残り1か月を切ったこの日、初めてメンバーにバックバンドを混ぜた全体リハーサルが行われている。 もちろん、晃汰も唯一のギタリストとして参加しており、いつもにも増して真剣な眼をしている。

  「う〜んと、まいやんさん。 真夏さんが絶妙にキーを外してくるんすけど、怒ってもらっていいですか?」

  「真夏、仕事だよ?」

  「ごめんなさい、一生懸命歌ってます・・・」

 ギタリストが秋元の音痴さを指摘し、それに食いつく黒石さん。 某番組ではお決まりのこの流れが自然にできてしまう程、全体の雰囲気は良い物である。 バックバンドのミュージシャンとははじめましての晃汰も、彼らとのコミュニケーションも上手くいっていて、AKBのときよりもいい意味でリラックスができているのだ。

  「やっぱり、まいやんさんと真夏さんは本当に仲がいいんですね〜」

 ワンクールが終わり10分のブレイクタイムに入った。 指のストレッチをしながら、目の前でじゃれている白石と秋元を見て晃汰は眼を細めた。 それをそばで聞いていた橋本が、そんなギタリストの独り言に答える。

  「麻衣はツンケンしてるけど、プライベートだと真夏よりも真夏にベッタリだよ。 裏でこれだけ仲良くできるから、TVとかではああいう関係性が築けてるのかもね」

 しみじみと2人を見守りながら、橋本は晃汰の隣で腰のストレッチを始める。 腰痛持ちの橋本にとって、長時間のダンスは身体を酷使する。 抱えた爆弾が爆発しないよう、こうして少しでも張りをとるのが最低限なのである。 

  「それとさ、この後って仕事ある? ちょっと付き合ってくれない?」

 真横に伸びながら、乃木坂一のクールビューティーはギタリストに問う。 頭の中でスケジュールを確認した晃汰は、顔を向けずに橋本に返答する。

  「ないですけど、僕彼女いるんで誘惑してもだめですよ?」

  「え?彼女いるんだ!? それに、誘惑するのは美彩の役割だから・・・」

  「いや、彼女ぐらいいますよ〜。 ・・・美彩姉さんの話は置いておいて、どこか連れてかれるんですか?」

  「うん、ちょうど弟が遊びに来てて、丸ちゃんと同い年だから会わせてあげたいなって思ってさ」

  「お〜そうなんですか。 じゃあ、リハ終わったら速攻で片付けしますし、シャワーも浴びときますよ」

  「うん、わかった。 終わったらLINEするから、宜しくね」

 そう言って、橋本は晃汰の隣を離れてメンバーの輪の中に入っていた。 その後ろ姿に何となく悲壮感を感じた晃汰は、彼女の後を追うようにメンバー達の中に混ざっていった。

Zodiac ( 2017/08/01(火) 22:17 )