AKBの執事兼スタッフ 2 Chapters - 第4章 坂シリーズ
20 storys 〜打ち合わせ〜
 毎回恒例の某番組での選抜メンバー発表も無事に終わり、その16人と晃汰とでの新曲の打ち合わせを行っている。 AKBのときもそうであったように、音楽スタジオに自慢の機材を持ち込んだ晃汰が軸となり、新曲の構想をまとめ上げていく。

  「まあ今回は、飛鳥ちゃんが初めてのセンターなので・・・ しかも季節柄、夏ということもありますので、明るい感じに仕上げてはいきたいですね」

 冷たいカフェオレを啜り、晃汰は黒縁メガネをずらす。 周りを囲むメンバーたちは頷き、それぞれの意見を言う。

  「あの・・・」

 意見が飛び交う中、今回初めてど真ん中に立つ少女が、か細い右腕を上げた。 

  「夏なので、タイトルには”夏”とか、そういう言葉を入れてほしいです・・・」

 普段は物静かで、率先して表立つ正確ではない齋藤が珍しく、自ら発言をした。 ちょっと驚いた表情をのぞかせた晃汰だったが、沈黙のなかでハッキリとした声で彼女に答える。

  「わかった。 ただ、語呂によっては”夏”になるか”Summer”になるかわからないけど、必ずどちらかは入れるようにするよ」

 少ししか離れていないのに、とても遠くにいるぐらいの錯覚をしてしまう顔面の小さな齋藤にむかって、晃汰は親指を立てた。 

  「はぁ〜・・・ つ〜かれたっと」

 約1時間で打ち合わせは終了し、晃汰はメガネを外して背伸びをした。 おまけに大きな欠伸をし、切ったばかりの髪をかき上げた。

  「いい感じに作ってよね」

 初センター様が、挑発的な眼を向ける。

  「飛鳥、まず俺1個上ね? 普通は敬語ね?」

  「けど、乃木坂に関しては私のほうが先輩だからね」

 このSっ気なところが、着実にファンを増やしている一つの要因なのかなと、晃汰はチラッと感じながら席を立つ。 まだメンバー達は談笑をしているが、頭の中にあるイメージをすぐに音に表したい晃汰は、ギターと小さなアンプを持って再び席につく。 そして、自身のi padとギターとアンプを接続し、やがて心地いい和音を奏で始めた。 

  「それ、何のキー?」

 やはり最初に突っかかるのは、音楽お嬢様の生田絵梨花であった。

  「”F”なので”ファ”です」

 納得したように、生田は頷きながら席を立ち、自然な流れで電子キーボードの椅子に腰かけた。 ギタリストの眉がぴくっと反応するや否や、生田はFのキーに合わせた伴奏を弾き始めた。 

  「飛鳥、キーは”ファ”でいいでしょ?」

 中学時代に吹奏楽部だった齋藤に対し、晃汰は専門的に言う。 一連の流れをみていた齋藤は、二つ返事でOKを出した。 その上、徐にドラムセットを調整したかと思えば、センター様自らがドラムを叩き出したのだ。 何通りかのリズムを叩き終えた齋藤は、ドラムセット越しに晃汰に訊く。

  「3個やったけど、どれがいい?」

 スティックを指で回転させる齋藤は、自身気に晃汰を見る。 苦笑いを浮かべながら、そんな齋藤に晃汰はギターを抱えたまま答える。

  「俺的には2つ目の変則的なリズムが好きだけど、やっぱり王道的な3つ目かな、採用するなら」

 斎藤自身が初センターの曲で、試験的要素を入れたくない晃汰は、自分の嗜好を押し殺して彼女に伝えた。 普段から音楽の話をすることが多かった齋藤には、そんなギタリストの考えが見て取れた。

  「まあ、基本的にはベースもドラムもシンセも、もちろんギターも俺が全部やるからさ。 君は初センターに一刻でも早く慣れなさい」

 晃汰なりのユーモアを交えながら、彼は齋藤をドラムセットから剥がして、再度席に座らせた。 キーボードを弾いていた生田も席に戻っており、また殆どのメンバーが席に残っている形となった。 

  「僕が全部作るんですから、相当良い物ができますよ、期待していてください」

 机に両手をつき、晃汰は自信に満ち溢れた眼をメンバー一人ひとりに向けた。 その迫力に彼女たちはギタリストを信頼しきって、頷くだけであった。

 

Zodiac ( 2017/07/31(月) 19:35 )