AKBの執事兼スタッフ 2 Chapters - 第4章 坂シリーズ
18 Storys 〜ランチタイム〜
 乃木坂に留学した晃汰の初仕事は、握手会でのサポート役だった。 握手会での仕事の進め方はAKBで嫌という程身体に馴染んでいるし、乃木坂特有のルールがあるわけでもない。 初仕事にしては呆気ないなと、晃汰は耳につけたヘッドセットに指をやる。

 握手もひと段落し、メンバーたちはケータリングに列をなして群がる。 晃汰もその列に行儀よく並び、前後のメンバーとなにを食べようかと真剣に話し合う。 

  「わたし最近ダイエットしてるから、お肉系はあまり食べられないなぁ」

 晃汰の前に並び、彼と同い年の星野みなみが体型を気にした発言をため息とともに吐き捨てる。 すると、執事の後ろに並ぶ「あしゅ」こと齋藤飛鳥が彼の陰に隠れながら鼻で笑った。 当の星野にはお見通しのようで、彼女の右手が晃汰の目の前を通り過ぎ、齋藤の額にヒットした。

 仲良く食事をトレイにのせ、3人は丸いテーブルを囲むように座った。 星野の前に置かれたトレイを見て、晃汰は笑いを隠せない。

  「あれ? みなみ、肉系は食べないんじゃなかったの?」

 申し訳程度にサラダが添えられた角煮を指さしながら、晃汰は笑う。 その様子を見ている斎藤も笑いだしてしまい、おまけに星野も言い訳をしながら笑いだしてしまった。 3人で一気に笑ってしまうものだから、相当大きな笑い声が裏ブースには響き渡った。 その楽しそうな声を聞きつけた何人かが、食事をもって彼女たちの周りに座った。 

  「なんだか楽しそうじゃん、飛鳥たち」

 橋本奈々未がクールな笑顔をのぞかせながら、齋藤と晃汰の間に座る。 橋本と一緒に食事を選んでいた白石麻衣と衛藤美彩も、空いている部分に収まる。 AKBで年上メンバーとの付き合いには慣れていた晃汰ではあったが、この乃木坂屈指のアダルトチームの迫力に、少々戸惑っている様子であった。

  「あの後、アダルトチームは2次会行ったんですか?」

 先日の自身の歓迎会のその後が気になり、年長組の3人衆を見渡しながら彼女たちに聞く。 

  「実はね、私と沙友理(松村沙友理)でパフェ食べに行っちゃったんだよね・・・」

 ベロを出した白石が、お茶目に片目を瞑りながら頭部を手で押さえた。 

  「さゆりんごさんもなかなか食べますよね。 それで体型を維持できるのは羨ましいですよ」
 
 麦茶の入るコップに口をつけながら、晃汰は白石を見る眼を細める。

  「まっちゅんは本当によく食べるよね。 あと生ちゃん(生田絵梨花)もね」

 大人の色気満載の衛藤が、サラダをつつきながら笑う。 メディアでも大食いのイメージが定着している2人の生態は、やはり本物だったのだなと晃汰は小さく微笑んだ。

  「あ〜お腹一杯になった。 なんか眠くなっちゃったな」

 食事を終えた白石が、細い腕を伸ばしながら欠伸をする。 その両隣を歩く衛藤と橋本は同感して頷き、少し前を歩く晃汰も苦笑いを浮かべながら眼を擦った。
 
  「丸ちゃんはこの後どうするの? スタッフさん用の仮眠スペースもあるよ?」

 晃汰のことを気遣い、橋本が彼に声をかける。 晃汰と同じぐらいの弟がいる彼女にとっては、晃汰は弟のような存在なのかもしれない。

  「いつもは椅子で丸くなって30分ほど寝てるんで、乃木坂(こっち)でもそうしようかなぁって思ってます」

 傍らのスペースを指さしながら、晃汰は橋本に自然な笑顔を向ける。

  「そっか。 ただ、椅子で寝ると腰痛めるから気を付けたほうがいいよ」

 腰痛持ちの橋本は、そんな晃汰の腰までをも気遣う言葉を彼に投げる。 そんな橋本が女神のように思えてしまった晃汰は、数か月後に訪れる運命という試練を知る由もない。

■筆者メッセージ
お久しぶりです。時間軸がバラバラなんですが、こんな感じで進めていきます。
Zodiac ( 2017/03/13(月) 19:40 )