AKBの執事兼スタッフ 2 Chapters











小説トップ
第3章 博多の活躍
14 Storys 〜留学〜
 徐々にギタリストの体力が限界に近づくなか、残すセットリストはWアンコールの2曲だけとなった。 ひとつはこの日のために、メンバーが一生懸命に楽器を頑張ったONLY YOUと、デビュー曲のスキスキスキップである。 身体の全てを椅子に委ねている晃汰の目の前のモニタには、客席に取り付けられている定点カメラの映像が映し出されている。 それはメンバーたちが楽器を持って必死に練習する姿だった。 彼女たちがひたむきに頑張る映像がステージのビジョンに流され、ステージ再準備のためのカモフラージュとなっている。

 やがて映像が終わり、やけに明るいライトが舞台上にいる楽器を持ったメンバーたちを照らす。 楽器隊はメンバーがすべて受け持ち、バックバンドメンバーは静かに見守る。 指原のアカペラから始まり、徐々に楽器が合わさる。 この構成を考えたのも晃汰であり、何から何まで彼が口を出しているのだ。 

 ギターの山下がギターソロで少しミスってしまった以外、全体的大成功だったといえるだろう。 無論、舞台袖の晃汰は今にも飛び入り参加をしたそうでウズウズしていたが。 とにもかくにも、途中で止まってしまうという大参事には至らずに、生演奏コーナーは終わりを告げた。 安堵のため息を吐きながら、晃汰はギターを提げてステージ袖でスタンバイをする。 だが、ここで恒例のサプライズの発表である。 メンバーの悲鳴とも言える絶叫が会場内に響き渡り、折角準備をしていた晃汰は再びギターを預けて椅子に座る。

  「晃汰! 晃汰!!」

 京介の自分を呼ぶ声で、晃汰はやっと重たい身体を椅子から起き上がらせる。 本人にしたら、もう少し休んでいたかっただろう。 

  「何だよ」

苛立ちを抑えつつ、晃汰は呼びに来た京介に訊ねる。 京介は眼を見開いたまま、ギタリストをステージ脇まで引っ張っていく。 そこからステージのモニタを覗いた晃汰は、京介以上に目を見開く。

  48グループ専属スタッフ丸山晃汰、期間限定の乃木坂46留学決定! 

頭で整理できていない状態で、晃汰はマイク一つを握ってステージに上がった。 後に本人でも思い出せないぐらい、何を話したのか覚えていないほどだった。 だが、そんな状態でも好きなギターを触ってしまえば、晃汰は平生を取り戻すのであった。 最後の曲「スキスキスキップ」をいつもの通り、駆け回りながら晃汰は奏でる。 本人はそのつもりだったが、だれが見てもギタリストの異変は顕著に出ていた。 無理に笑顔を作り、無理に動き回っているのが目に見えている。 その道の人から言わせれば、「晃汰のいつものサウンドじゃない」のだ。 
 
 演者全員での挨拶を終え、ファンに手を振るメンバーを尻目に、ギタリストは真っ先にステージを降りた。 ツアーグッズのバスタオルが彼の方にかけられ、通り過ぎるその背中にスタッフたちは労いの言葉をかける。 主要なスタッフや関係者と二言三言交わした後、その足を止めることなく駐車場に向かう。 マイナーチェンジをしたばかりの真っ赤な86に晃汰は乗り込むと、クラッチとブレーキを踏みこんでエンジンを始動させた。 大きく息を吐いてからギアをローに入れ、静かにアクセルを話した。 LEDのテールランプは薄暗い駐車場を滑らかに通り過ぎた。 

Zodiac ( 2016/10/24(月) 21:43 )