AKBの執事兼スタッフ 2 Chapters - 第2章 まどかデイ
5 Storys 〜博多着〜
 日付が変わって森保の誕生日になった時、晃汰は既に打っておいたメッセージを彼女に送信した。 初めて会話した日や初めてデートした日の思い出などを綴り、今までの感謝の言葉とこれからのことを添えた。 そして、しばらく博多に行けないというサプライズの為の布石を彼は最後に付け加える。 移動中だということがバレないように、あたかも自分の部屋にいるかのように返信を行う。 残念そうな森保からの返信を受け、晃汰はニヤつきが止まらない。 そんな彼ではあったが、不眠不休で働いていた疲労が睡魔となって襲いかかってきた為、晃汰はシートに深く腰掛けて束の間の睡眠をとることにした。

 幽霊が最も活動的になるとされている時刻に、執事は博多の地に降り立っていた。 新幹線の中で仮眠をとったお蔭で晃汰の頭はスッキリとしており、暗い夜道でも裸眼で歩けるほどである。 一般的に視力が良いとされている A の診断を両眼に受けている彼だが、疲れている時や調子が優れない時には決まって視力が低下してしまう。 そんな彼が街灯の光だけで歩くことが出来ているのは、すこぶる調子が良い証拠である。

 そんな晃汰は、博多駅付近のビジネスホテルの一室を借りることに成功する。 17歳の少年が真夜中にやってくることもなかなかないので、フロントマンは対応に困っていた様子だったが、淡々と切り出す晃汰に圧倒されてなんの疑いを抱くことなく、最終的に目の前の少年にルームキーを渡した。 受け取った鍵を彼は慣れた手つきでドアの鍵穴に差し込み、至って簡単なつくりの部屋に入る。 東京から同行させていた小さめのキャリーバッグの中身をバラし、必要な道具を持って晃汰はバスルームの扉に手をかけた。

 思春期ニキビの対策をしっかりと施し髪をドライヤーで乾かした晃汰は、バスローブを纏ったままベッドに飛び込む。 跳ね上がったスマホを空中でキャッチし、適当な時間にアラームを設定して、晃汰は部屋の電気を全て消した。 

 どれだけ疲れていても、どれだけ遅く寝てもいつもの時間に起きてしまう体質になってしまっている執事にとって、目覚ましはもはや飾りにすぎない。 午前8時にセットしたアラームの2時間前に目を覚ました晃汰は、寝足りない眼を擦りながらスマホで時刻を確認する。 

  「これだから勝手に目覚める体質は嫌なんだよ・・・ あと2時間我慢して寝てくれよ」

自分の身体にブツクサ言いながらスマホを充電ケーブルと接続し、体勢を変えて彼は再び眼を閉じる。 仕事がない朝の二度寝は最高に気持ちがよく、すぐに晃汰は夢の中で森保と抱き合っていた。

 2回目のスヌーズでベッドから降り、部屋に入るまで着ていた服とは違う服をキャリーバッグから探し出し、自前の香水を晃汰は少しだけ振りまく。 執事・スタッフと言う立場上、キツい匂いを発する事を彼は良しとしないが、最低限のお洒落として微かに匂わせているのだ。 髪も綺麗にセットし終わり、荷物をまとめて晃汰は6時間弱だけ世話になった部屋に背を向けた。 フロントで料金を支払い、その足で近くにある宅急便の営業所に向かう。 これから動き回ることを考えるとキャリーバッグは足手まといなので、自宅に要らないものを送ってしまおうと晃汰は考えたのである。 必要なものとそうでないものを選別し、要らないものは全てキャリーバッグに詰め込んで自宅に送ってしまった。

 身軽になった執事は博多の太陽をサングラス越しに睨み、これからの予定を頭の中でざっと考える。 先程の運送手続きをしている最中に浩樹からの連絡で、森保が劇場に向かったことは把握できており、その時間に合わせて注文しておいた彼女へのプレゼントが、そろそろ森保家に届く頃だろうなと晃汰は計算をする。 その荷物は浩樹が受け取ることになっており、その後、浩樹と合流してHKTの劇場に2人で向かう。 そこで宮脇と前々から温めておいたサプライズを実行に移す。 軍事作戦ぐらい綿密に練られた作戦を、何度も頭の中で晃汰はシュミレーションをし、幾通りものプロセスを編み出す。 それは何より、森保の驚いた顔を誰よりも楽しみにしているのが晃汰であり、そんな驚いた顔をしている森保を抱きしめたいと考えているのも晃汰であるからなのだ。禁断の恋という立場でありながらもグループ内の密告者は未だにゼロ、むしろメンバー達は2人の恋を応援している。 そんな温かい状況に晃汰と森保はいつも感謝をしながら、一生懸命に毎日の仕事もプライベートも頑張っている。
 

■筆者メッセージ
サイトがバグってしまい、話がだいぶ巻き戻ってしまいました。 新しいシリーズの方もゆっくり復活できればなと思っています
Zodiac ( 2015/10/28(水) 22:37 )