AKBの執事兼スタッフ 2 Chapters











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第2章 まどかデイ
9 Storys 〜永い夜〜
 二人の話は、最も最初に顔を合わせた時にまで飛躍した。 晃汰がスタッフになりたての頃に参加した、グラムでのPV撮影。 現地に旅立つ前の空港で、彼と森保は初めて顔を合わせた。 その時は"同い年の子"というお互いの位置づけで終わったが、グアムでは何かと接触する機会があり、少しずつ互いを意識し始めていた。 その後、晃汰の博多出張や映画の主題歌の共作(競作)などがあり、ついに合宿で2人は告白をし合った。 自然な流れで、どちらもこんな展開になるとは予想していなかった。 だが、晃汰が合宿で熊に襲われたことを聞き、身体が勝手に動いた森保は初めて自分の気持ちに気づく。 "自分に尽くしてくれる異性" という存在に疑似恋愛を抱きやすい。 と言うことは何かの少女漫画で読んだことがあった彼女だが、疑似恋愛ならここまで涙が出ないと確信した。 そして森保は夜の庭園に晃汰を呼び出し、告白をしたのだ。

  「・・・なんか、恥ずかしいネ」

 首筋を摩りながら、晃汰は照れ笑いでごまかす。 一方の森保も少し顔を赤らめてはいるが、真剣な眼差しは目の前の晃汰を捉えている。 

 沈黙が流れ、晃汰と森保は視線を一直線に合わせる。 眼の前に最愛の人間がいることだけで、二人は幸せをかみしめることができている。 ただ、今夜は誕生日の夜と言うことが、お互いを少し大胆にさせてしまったのかもしれない。 

 森保が眼を瞑るのが先か、晃汰が彼女の肩に触れるのが先か。 二人の唇は沈黙の中で触れ合っていた。 まだ女を抱いたことが無い執事に、抱かれたことが無いアイドル。 これからの展開を説明するには充分なほど、森保の服ははだけていた。

 聞きなれない電子的な音で、森保は目覚めた。 自分のベッドで丁寧に布団までかけられているが、自ら布団を被った記憶は何処にもない。 音のする方に首を向けると、晃汰が彼女にプレゼントしたキーボードで音色を奏でていた。

  「起きたか」

 森保に晃汰は気づき、キーボードの電源を落としてベッドに腰掛ける。 

  「キスしてたらいきなり寝始めてさ、どんだけ疲れたまってたんだよ」

 晃汰は笑いながら森保の頭を撫でる。

  「晃汰。 その・・・ 私と、ヤったの?」

 しっかりと留められたボタンを指先で確認する森保は、恐るおそる目の前の執事に尋ねる。 対する晃汰は、涼しい顔のままだ。

  「寝る訳ないでしょ。 正直、めちゃくちゃ抱きたかったけど、それはまだ早いなって。 まどかが卒業するまで、抱かないって決めてるから」

 あえて顔を逸らした晃汰は、段々と声を小さくしていった。 恥ずかしさだけではない何かが、彼をそうさせているのである。 

 すると、そんな晃汰を森保は背中から抱いた。 抱き着くのはいつも自分の方からだと思っていた晃汰には、突然の事過ぎて理解ができなかった。 二人は何も話さないまま、身体を密着させていた。 

  「あれ? まどか、胸、大きくなった?」

 男の晃汰にしたら、こんなことはジョークの一つにすぎなかった。 だが、女子の森保は胸の小ささをコンプレックスに感じている為、彼のその言葉がとても嬉しく感じた。 

  「え? 嘘!? 本当に?」

 半信半疑な森保は、あろうことか晃汰の眼の前でシャツのボタンを外し始める。 

  「ちょ待てよ!」

 無意識にも関わらずにキムタクのモノマネが出てしまい、森保もそれにつられて思わず手を止める。 晃汰は一呼吸を置いて彼女を説得する。 

  「いや、見たくもなくはないけど・・・ やっぱり見ちゃったらさ、ちょっと俺も男だからさ・・・」

  「でも、写真集は見てくれたんでしょ? 裸になるわけじゃないんだから」

 見たがらない男に見せたがる女。 普通なら逆のパターンが一般的なのに、この室内ではどうやら訳が違う。 そして、とうとう晃汰が折れる形で、森保の透き通るような上半身が露わになる。 もちろん、下着はつけたままである。

  「さっしーから教わったおっぱいが大きくなる体操やってたから、その効果が出たんじゃないかな」

 自分の胸を揉みながら、森保は嬉しそうに顔を皺だらけにし、晃汰は視線を彼女に向けないようにしている。 そして、脚を組んで何かを必死に隠している。 

  「アイドルに胸は要らないと思うけどなぁ」

 そう呟きながら、晃汰はスマホを取り出して帰りの電車などを調べる。 そんな彼の後姿にさみしさを感じた森保は、再び晃汰の背中に抱き着く。 今度は、もっと胸を押し付けて。

  「森保、もうお帰りの時間だから、そろそろ離れてくれないかな」

 一言に帰りの時間と言ってしまえば簡単だが、単に晃汰の理性が限界を迎えているだけの事である。 そんな晃汰の必死の抵抗をよそに、森保は密着させた身体を離そうとはしない。 とうとう観念した晃汰は、いきなり振り向いて森保をベッドに押し倒し、彼女の胸と首筋にキスの雨を降らした。 ぎこちなくも艶っぽい森保の吐息が漏れ、晃汰はそれを封じるように、彼女の唇に自分の唇を静かに重ねた。 

  「こんなに遅くまですいませんでした」

 タクシーに乗る間際、晃汰は森保一家に別れの挨拶をする。 明るい表情の両親と浩樹とは対照的に、暗い顔の森保は彼を上目遣いで見つめる。 

  「そんな怖い顔すんな。 どうせ来週には握手会で会うんだから」

 そう言って晃汰はタクシーに乗り込み、窓を下げる。 森保両親からまた来るようにと言われ、晃汰は頷いて運転手に出発を要請した。 紅いテールランプが角を曲がるまで見送っていた森保一家は、将来あの執事と家族ぐるみの付き合いになるんだろうなと全員が感じていた。 

  「まどか、ミルクティー淹れてあげるね」

 いつまでもタクシーが走り去った方を見ている森保に、森ママが優しく声をかける。 うん と素直に答えた森保は、瞳に溜まった涙を指で拭った。

■筆者メッセージ
今年もよろしくおねがいします。 相変わらず間隔があいてしまいますが、今年も読んで頂けるよう、努力してまいりたいと思います
Zodiac ( 2016/01/07(木) 17:49 )