AKBの執事兼スタッフ 2 Chapters - 第2章 まどかデイ
7 Storys 〜サプライズ〜
 森保まどか生誕祭と題された特別公演は、森保本人に焦点(hocus)を当てて進む。 170cmに迫る長身がセンターに立つものだから、周りのメンバーはチンチクリンに見えてしまうなんともユーモラスな光景が始終観客の眼前に晒されていた。 今夜の司会進行役は本村は自ら受け持ち、上下のメンバーから母親的存在として崇められている事実を、そのまま舞台上でも余すところなく発揮している。 

 公演も終盤になり、森保が曲中に涙する場面がモニター越しの晃汰にも見て取れた。 何故だか晃汰の眼にも涙が滲み始め、必死に堪える姿を隣にいる浩樹は黙って見ていた。 複雑な恋愛環境の中で、素直に愛の言葉を伝えることも許されない立場であっても、決して2人はめげずにひたすら走り続けてきた。 夜を共にしたことはたったの一度もなく、キスだって人眼のないレッスンスタジオでしかできずに。 万能な恋人の幻を自分の中に作っては、寂しい夜を何度も超えてきた。 強いられているそんな人生でも、それぞれにしっかりと夢が位置づけられているからこそ、2人は過ちを犯さずにアイドルと執事を続けることが出来ているのだ。

 熱い客席に別れを告げ、全セットリストを終えて汗だくになったメンバー達が楽屋に引き上げてくる。 晃汰と浩樹は先程隠れた倉庫に再度身を潜め、サプライズの時を今か今かと静かに待つ。 汗と香水の入り混じった匂いと女子達が飽和状態となり、扉の隙間から楽屋の様子を伺っている晃汰と浩樹は思わず咳込みそうになってしまった。 やがて彼らの目当ての人物が大きな花束を抱え、涙で顔をぐしゃぐしゃにしながら楽屋に入ってきた。 各々自分の時間を過ごしていたメンバー達は一斉に拍手をし、森保の誕生日を改めて祝う。 宮脇が小さな花束を持って近づき、森保とハグをして喜びを分かち合う。 一歩下がった宮脇だったが、隠し持っていた手紙を森保に出しだす。 晃汰が汚くも一生懸命に書いた手紙である。 見慣れた文字で自分宛に書かれている封筒を開き、森保は何度も涙を拭いながら手紙を読む。 小さな嗚咽が大きなものへと変わっていき、思わず宮脇は森保を小さいながらも抱き寄せた。 そんな宮脇に嫉妬した晃汰は、本能が突き動かすままに扉を勢いよく開ける。 何事かと周りにいたメンバー達は彼の方に振り返り、驚きのあまり口と眼を大きく開いてしまった。 

  「咲良、選手交代。 代打オレ」

こういう時だけは不器用な晃汰に、もう少しロマンチックな展開を期待してはいけない。 微笑みながら森保の背中に回した腕を払った宮脇は、静かに下がって群衆の中に紛れた。 

  「来れないってかいてあったじゃん・・・」

 涙声でほとんど掠れてしまっている声で、森保は晃汰に訊く。 晃汰は首筋に手をやりながら、苦笑いを浮かべる。

  「サプライズしたかったからさ。 ・・・誕生日おめでとう、I Love You・・・」

不器用なりに必死に考えた言葉を伝え、晃汰はそっと森保の頭を自分の胸に押し付ける。 彼女の泣き声もろとも自分の胸で受け止める晃汰に、周りの連中は憧れの念を密かに抱く。 続いて浩樹も登場し、彼も晃汰と同様に姉である森保とハグをして祝う。

 森保の涙が乾いてきたところで、全員で記念写真を撮る。 当然ながら尾崎支配人も一員に加わり、一緒に収まる。 その後に晃汰と森保のツーショット、森保姉弟のツーショット、森保姉弟と晃汰のスリーショットを撮った。 森保と晃汰の間に挟まれて撮りたいと言いだすメンバーもいたが、これだけは尾崎支配人からNGが出てしまった。 代わりに、森保姉弟の間で勘弁してくれと尾崎は代案を考え付いた。 それはメンバーの間で好評で、晃汰は少しh久雑な感情を抱いた。  

■筆者メッセージ
寒くなってきましたね・・・ 相変わらず順番が上下してしまって申し訳ないです(汗)
Zodiac ( 2015/12/01(火) 21:21 )