37 storys 〜機材バカ〜
今日はロケ地にいることはいるんだが、音楽室にいる。 自宅から運んでもらった膨大な数の楽器や機材で、まどかと曲作りをするのだ。 撮影の時間が2人とも今日は少ないので、この日を選んだ。 ipadだけでの作曲もよかったんだが、実際に弾いた音とでは違うと判断したので、こういった措置をとった。 また、午後にはゲストをよんでいて、ゲストを前にしたまどかの反応が楽しみである。
相変わらず衣装の制服を着させられている僕は、派手に動くことができない不満を腹に飲み込んでいる。 制服といっても、衣装なので運動性はかなり劣っている。 アクションの際はそれ用の衣装を着るのだが、滅多にお目にかかれないのである。 自分の学校とは少し違ったデザインだったことが、少しは気晴らしにもなったのかもしれない。
「暇そうだね? 晃汰」
廊下を何気なく歩いていると、またも背後から声がした。 この現場は、背後からしか声をかけちゃいけない規則でもあんのか!?
「暇に見えますか!?」
JRコンビに振り返りながら答える。 正直、玲奈さんの制服姿は犯罪だ。
「こんな時間にブラブラ歩いてるんだから、暇そうでしょ」
姉さんがバカにしたように笑う。 一時期の体調が悪かった頃に比べると、顔の血色は相当良いものだ。 その隣の玲奈さんも、相変わらず真っ白な肌をしている。
「これからインタビューなんだよ、2人で」
玲奈さんがおっとりとした口調で言った。
「なるほど。 いいな〜、取材。 僕も受けたいですよ」
「そろそろ、バンバン依頼がくるんじゃない」
2人に別れを告げて歩き出すと、お目当ての人物が音楽を聴いていた。
「音楽室に機材を運んだから。 今日はそこで作曲するからよろしく」
最初、まどかは話の内容が理解できなかったらしい。 だが、 作曲 の単語でやっと飲み込めたらしく、あいつお得意の笑顔で返してきた。
僕に少し遅れて、まどかは音楽室にやってきた。 電子ピアノが近くにあるのにもかかわらず、グランドピアノの椅子にまどかは座った。
「やっぱり、こっちの方が落ち着く」
鍵盤に指をのせながらまどかは言った。
「まずは、出来たとこまで確認しようか」
スピーカーから流れる音は、紛れもなく俺たち2人で作り上げた作品だ。 まだデモ音源の段階だが、これに布袋さんのアレンジが加わると考えただけで鳥肌がたつ。