AKBの執事兼スタッフ


















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第7章 憧れの人
34 storys 〜ミステリアスガール〜

 布袋さんと飲んだ次の日、東京に仕事で来ていたピアニストと夕飯を共にしていた。 かねがね誘われていたし、布袋さんの話もあったので、僕から誘った。 とびっきりのオシャレをしたまどかと相対して座っている。
  「歌詞の方は順調なの?」
開口1番。 まどかが発した言葉はこれだ。 苦笑しながら答える。
  「その話なんだけどさ・・・」
この間で、まどかはただ聞き入っている。
  「俺にも作曲、手伝わせてくれない?」
一瞬の沈黙があって、まどかが口を開いた。
  「正直、キーボードとかシンセならできるんだけど、ギターとかドラムは全然できないんだよ」
照れ笑いを浮かべるまどかを横目で確認する。 思わずガン見してしまいたいほど、整った横顔だ。
  「で、作曲を手助けしてくれる人がいるんだよ」
  「え〜 誰?」
これに関しては反応が速いまどかさん。 いつものドSスイッチが、今になって入ったのだろうか。
  「布袋寅泰ってギタリストなんだけど、知ってる?」
  「ん〜 聞いたことあるようなないような・・・」
まぁ、そりゃそうだろうな と、心の中で納得した。 逆に、知っていた時のリアクションに困っていただろう。
  「その人が作曲とアレンジを手伝ってくれるんだよ。 正直、助かったよ。 まさか俺とまどかで作った曲が世間に出回ると考えたらさ」
水の入ったコップに手を伸ばす。 
 やがて料理が運ばれてきた。 まどかのリクエストでイタリアンの店にした。 2人ともパスタを注文し、2人で半分ずつ食べるつもりでピザを1枚頼んだ。  
  「そういえば、晃汰と2人っきりでご飯って初めてだね」
フォークで器用にパスタを巻きながら、まどかが笑った。 
  「いつもなら、咲良とかがいるもんな」
口元を緩めて答えた。 実際、まどかを前にして緊張している俺がいる訳で。
 デザートのアイスも食べ終わり、一呼吸おいてから席を立った。 鞄から財布を取り出すまどかを右手で制し、レジに向かった。
  「お釣りは結構です」
それだけ言い残して、店を出た。 先に出ていたまどかが近づきながらごちそうさまと言ってきた。
  「デートは、ふつう男が全部払うもんだぜ」
  「え? デートなの!?」
  「んなわけねーだろ、バーカ」
ドSと言われるまどかに、それ以上のドSを喰らわせると楽しくてしょうがない。 
  「ねぇ。 今夜一緒に寝てくれない?」
  「はぁ!?」
まどかをホテルに送る車中。 突然まどかは突拍子もないことを口走った。
  「変な意味じゃなくて、1人部屋で寂しいんだよ・・・」
ミステリーガールにも、こんな可愛らしい一面があるとは思いもしなかった。咲良の話によると、泣き虫でもあるようだ。
  「さすがに駄目だろ。 心細くなったら、連絡してこいよ」
  「本当に? LINEで電話しても出てくれる?」
  「う〜ん、時間による」
ホテルよりも少し離れたところで停車した。 万が一、記者が張り込んでいたとしても、ここで車を降りてしまえばみつかる心配はないからだ。
  「今日はありがとうね。 奢ってもらって・・・」
  「いいんだよ。 俺が誘ったんだしさ」
  「今度も、また誘ってね」
  「あぁ、わかってる」
ドアの開閉レバーに手をかけたまどかだが、寂しげな眼をむけてくる。 おまけに、その端正な顔がよく見えるように髪をかきあげた。
  「しょうがねぇな・・・」
俺はまどかの顔に近づき、まどかのおでこにキスをした。 
  「お前のファーストキスを奪えるほど、俺も大人じゃないからな」
ふくれっ面のまどかに言い聞かせるように笑った。 

13/08/04 21:21更新 / Zodiac

Zodiac ( 2013/08/20(火) 19:42 )