33 storys 〜188×175〜
「今は何聴いてんの!?」
「殆ど昔のバンドが中心ですネ。 今のバンドには魅力を感じないんです」
「それは、僕も思ってる」
いきつけの居酒屋から移動し、今度は布袋さんが知っているというバーにきた。 落ち着いた雰囲気の店で、さすがは布袋さんといったところだ。 そんな僕たちの会話を肴に、秋元さんはカウンターでグラスを傾けている。
「曲は、どんな感じにするんだい?」
口調は僕に合わせてくれているが、明らかにミュージシャンに対する内容を裏に隠している。
「アイドルなんで、ポップな感じにはしないといけないなと思ってます。けど、それだとなんかつまらないですよね」
悪戯っぽくニッと笑い、ジュースのコップを持った。
「ただ、もう1人作曲者がいるんで、そいつも入れてみないことにはわからないんです」
「なるほどね・・・」
納得したように頷いたギタリストは、2杯目のカクテルに手を伸ばした。
「僕は前にももクロに楽曲を提供してるんだよ。 で、その時に日本で起きてるアイドル事情をちょこっと拝見したんだ」
「えぇ、あれは衝撃でしたよ。 まさかあの世界的ギタリストがアイドルに曲を作るなんて」
照れ笑いを隠した布袋さんは続けた。
「僕らの時代はバンドブームだったけど、今はアイドルブームなんだよね。 そんな殺伐とした時代に、僕は戦いを挑むんだよ」
皆あんたに憧れてバンド始めたからバンドブームがきたんだよ! この俺もあんたに憧れてギター始めたけどよ!!
「何が言いたいかというと、僕にとって良い相棒が今回はいるってことだ。 もちろん、目の前にいる執事君のことだけどね」
え!? 今なんていった? 良い相棒?? あの布袋寅泰がこの僕を相棒にしてくれただって!!!????
「よ、よろしくお願いします!」
頭の中では嵐がおきている。 その影響が口調にも出ていることは自分でもわかった。
「久し振りに、若い有望な人間と話ができた。 今日は楽しかったよ。 また連絡してくれ」
タクシーの中から、布袋さんが顔を覗かせている。 あの後、音楽の話も去ることながら、いろんなジャンルの話をした。 深夜を回った頃にお開きとなり、今に至る。
「じゃあ、良い楽譜を期待してるよ」
闇に消えていくテールランプを、僕はいつまでも見送っていた。 秋元さんを待たせていることを思い出し、車に戻ったのはもっと後のことだ。