AKBの執事兼スタッフ


















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第3章 初大仕事
20 storys 〜グアム最終日3/3〜
 荷物のまとめが済むと、腕時計を確認した。 午後の5時を少し回った頃で、打ち上げは6時から始まる。 ふと、日本から持ってきたアコースティックギターを弾いていないのに気付いた。 これはイカンと思い、カメラとギターを持ってホテルの前の砂浜に向かった。 赤く燃えながら地平線の彼方に沈もうとしている太陽は、言い表せないほどきれいで美しかった。 思わずシャッターを切る手を止め、見入ってしまったほどだ。
 やがて、荷物の整理を終えた相棒もギターを片手にやってきた。 流木に座りながらセッションするのは、最近のお気に入りの「君のことがすきだから」だ。 楽譜も無しに即興でアレンジをしてしまう2人に、驚くのは慣れている。それよりも、ハーモニーを奏でることへの快感が上回ってしまっている。
 すると、ポケットの携帯が振動した。 セッションを途中で止めるのは惜しかったが、仕事の連絡かもしれなかったので通話ボタンを押した。
  「もしもし?」
連絡先の表示をよく見ずに出たため、相手はわからない。
  「あ、まどかだけど」
お前かよ!? と危うく言いそうになってしまった。 次からは、ちゃんと表示を見てから電話に出ることにしよう。
  「どうした?」
平然を装いながら尋ねる。
  「咲良と話していて、どこにいるのかな〜って思ってさ。 で、何処にいるの?」
電話の向こうのまどかの顔は明らかに笑っている。 何やら、良からぬことを企んでるのだろう。
  「砂浜で、京介とギター弾いてるよ」
  「知ってるよ」
  「なんで!?」
  「だって、後ろにいるんだもん」
恐る恐る体を捻ると、2人がニコニコ顔で立っていた。 その笑顔には、恐ろしささえ覚えた。
  「ギターの音が聴こえたから、絶対晃汰と京介だと思ってさ」
まどかと並ぶと、スタイルには引けをとってしまいそうな咲良が珍しく会話に積極的だ。
  「もうすぐ打ち上げ始まるよ。 行かないの?」
どうやら、僕たちを迎えに来たみたいだな。
  「今いくよ。 少し待って」
ギターをケースにしまい、それを担いで2人を追った。

  「みなさんお疲れ様でした。 今回の楽曲やPVは過去最高といっても過言ではないほどの・・・」
 打ち上げが時間通りに始まり、まずは戸賀崎さんのあいさつから始まった。続いては秋元さん、たかみなさんといった順番でマイクを握った。 僕の周りの同級生メンバーは、既に飽きはじめている。 隣にいる本村碧唯は、今にも寝てしまいそうだ。 反対方向の隣には、姿勢よく話を聞いているまどかがいるわけで。 HKTには、個性的な奴が多いなと実感した。
  「・・・ここで、今回初参加のスタッフにスピーチをしてもらいたいと思います」
なにやら、たかみなさんが良からぬことを口走った。 もしや? と思って秋元さんの顔を見た。 「お前たちだよ」とでも言っているかのように、僕たちを指さしてきた。
  「あ、俺ちょっとお腹痛くなってきた・・・」
京介が嘘バレバレの演技をし始めた。 これで、お前の俳優業はなくなったぞ。
  「仕方ねぇな・・・」
ジャケットを着なおしながら、壇上に上がってマイクを受け取った。 何を話したかは覚えていないが、とにかく思ったことをしゃべったことは覚えている。
  「かっこよかったよ。 いつもと違ってさ」
悪い笑顔を浮かべるまどかのおでこにデコピンをし、乾杯の音頭と共にコーラを飲み干す。
 今回の遠征で感じたことは、AKBを売り出すためにはメンバーよりも多くの人間が動いているわけで、そのパズルに1つのピースとして僕と京介が含まれている。 まだ実感は湧かないが、それは時間が解決してくれるであろう。
そして、得たものもある。 メンバーとの友情は、この遠征でグッと深まったのではないだろうか。 まだ全員と話せたわけではないが、少しでも多くのメンバーと話す機会があればいいなと思った。

Zodiac ( 2013/08/18(日) 21:14 )