16 storys 〜グアム5日目 空中戦〜
今日と明日で撮影を終わらせ、編集は帰国してから専門の演出家に依頼する。 少しでもこっちにいる時間を撮影に使いたいがために、こういった方法を採用している。
「ヘリは大丈夫です。 いつでも撮影開始できます」
僕が操縦するヘリには、僕と京介しか乗っていない。 空からの撮影担当に、KKコンビが抜擢されたのだ。 つくづく、いろんな免許を取っておいて良かったと感じている。
「OK。 始めるぞ」
無線機から流れてくるのは、地上にいる石上さんの声だ。 彼は今日、空中と地上との連絡係となっている。
実際にヘリを動かすのはこれで2回目だった。 だが、不安や焦りは一切なかった。 何故こんなにも余裕でいられるのか、辞意分でもわからなかった。
操縦席の後ろのスペースでは、京介がカメラを担いで地上を覗き込んでいる。この頼りがいのある相棒は、すぐに専門のカメラの使い方をマスターしてしまった。
今回はただ単純に飛ぶのではなく、いろいろと考えて飛ばなければならない。 メンバーがどう映りこむのか、どういった構図になるのか。 そういったことをその都度頭で考えて操縦しなければならないのだ。
「もう少し、高度を上げてくれ!」
ヘッドセットから背後にいる京介の声が聞こえてきた。 僕は 了解 とだけ応答し、言われたとおりに高度を上げた。 京介がどんな構図で撮りたいかは、事前の打ち合わせで確認済みだ。
白い砂浜が恋しくなった頃、地上からの連絡を知らせるサイレンに似た通知音が機内に流れた。 案の定、石上さんからだった。
「撮影は完了した! 下りてきてくれ!」
京介が応答の言葉を探し終わるうちに、僕は心の中でガッツポーズをして高度を下げた。
「お疲れ!」
エンジンを停止させた直後、京介が右手を挙げてきた。 あえて言葉を発さずにハイタッチを交わし、ヘリを降りた。 そこに、サングラス焼けが半端ない石上さんが歩み寄ってきた。
「お疲れさん。 VTRの編集は明日するって監督は言ってたから、今日は終わりだよ」
本当に1日が終わったのだと、今の言葉で実感した。 早々に切り上げていく石上さんを見送ると、2人は同時に砂浜に寝転がった。 つけていたサングラスを外し、両手両足を伸ばして深呼吸をした。
「長かった〜」
ずっとカメラを担いでいた京介は、肩を揉んでいる。 それもそのはずだろうと、相棒の労を労った。
夕暮れの空をしばらく見ていた。 流れていく雲を目で追いながら、物思いに更けていた。 今や日本を代表するアイドルグループのPV制作に、自分たちが1つのピースとして存在しているのが今でも信じられない。 それは、2人とも共通して思っていることだ。
「帰るか」
砂を払って立ち上がった僕は、京介に手をかして起き上がらせ、車に向かった。