AKBの執事兼スタッフ - 第3章 初大仕事
12 storys 〜グアム初日 夜のデイトは危険すぎるからなんて!?〜
 現地に到着したのは、3回目の眠りに入ろうとしていた頃だった。 ゆっくりなテンポの曲をウォークマンで流していて、その効果は抜群だった。 隣りの京介も熟睡していたし、通路を挟んで隣りのたかみなさんも爆睡だった。
  「もう夜じゃん。 こっちの時間で何時?」
 欠伸をしながら、京介が尋ねてきた。 腕時計で確認すると、午後の7時を回っていた。 タイムテーブルによると、これからホテルでの夕食の後は自由時間らしい。 この 自由時間 の単語に、身震いがした2人だった。 が、その予感は見事に的中する。
  「丸ちゃん、京介!」
 背後から陽気な声が聞こえてきた。 2人には、悪魔の囁きの様にきこえた。
  「ご飯食べた後さ、ちょっと付き合ってくれない?」
 肩を組みながら笑顔で話しかけてきたのは、しのまりさんだ。 僕と並んで、身長的にさまになるメンバーの1人だ。
  「えっと・・・ 僕と京介はちょっとやる事が・・・」
  「夜にか弱い乙女たちを外に出す気?」
  「乙女たちって、誰ですか!?」
  「ん〜と、敦子とWみなみと陽菜と・・・」
  「結局、僕達が行かないと盛り上がらない、と・・・?」
  「そうゆうこと! じゃ、ホテルに着いたらまた連絡しま〜す」
 それだけ言ってさっさと何処かへ行ってしまった26歳児。 どこまで自由奔放なのか。 京介と顔を見合わせていた。
 空港からホテルまではホテルのバスで送迎してもらった。 あえてこの特典が付いたホテルを秋元さんは選んだろうなと、どうでもいい事を考えた。
 さて、ホテルに到着し、部屋割もきまったところでアノ人からの連絡がきた。 なんと、夕食まで誘ってきた。 だが、行かないと後が怖いので、京介と泣く泣くレストランに行った。
  「おそ〜い!」
 優子さんが頬を膨らませながら言った。 僕等は、ただ怪獣の機嫌を損ねないようにする事が生き延びる手段だと解釈した。
  「買い物なんだけどさ、近くに海岸てか、岬があるみたいなんだよね。 そこで写真撮ろうよ」
 ナイフで切り分けた牛の肉をフォークで口に運びながらしのまりさんが言った。 その言葉で、僕は過去の思い出を思い返した。 それは、後ほど語る機会があるかもしれない。
 約1時間の食事を終えて、早速一行は徒歩で目的地に向かった。
 メンバーは先程紹介した4人に、優子さんをプラスした合計8人だ。 食事の際にいた珠理姉さんは来ない。
  「あ〜、ここ!」
 30分歩いて辿り着いた。 食後の良い運動になって良かったと、京介とお腹を撫でた。 京介と僕はこれとして買う物が無かったので、店先にあるイスに座っていた。 ここの店は、周辺に住宅などの建物が全くと言っていいほどない。 だから、森がすぐそこまで迫っている。
 違う雰囲気を目の前の林の中から感じ取ったのは、京介との会話で撮影の話に切り替わった直後だった。 口調は変わらなかったが、京介も気づいたらしく、眼で合図した。 しばらく様子を窺ったが、明らかに人間的な気を感じる。 
 僕は京介にウィンクをし、ジャケット内のホルスターからSOCOMを抜いて林に近づいた。 京介には前もって同じ銃をプレゼントしておいた。 だが奴は、近距離系の武器を好む。 今も、特殊警棒を握っている。
 指で3、2、1・・・ とカウントし、林を突破した。 そこには、人影が3つほどあった。 銃に搭載されているライトで照らしてみた。 そこには、尻もちをついた花音に玲奈さん、そして珠理姉さんがいた。
  「なにやってるんですか・・・」
 安堵のため息を吐きながら、SOCOMをホルスターにおさめた。 そして、手を差し出した。 3人を起き上がらせ、店先に戻った。 が、僕と花音はほかのメンバーの隙を見て、岬に走った。 もちろん、誰にも気づかれずに。
  「懐かしいね、ここ・・・」
 岬まで走りきって息をあげた花音が、両手を膝についた格好で言った。
  「初めて旅行に来た時、写真撮ったところだよネ」
 乱れた服を整えながら答えた。 
 浜風が花音の髪を揺らす。 月明かりに照らされた花音は、違う雰囲気を醸しだしている。
  「昨日、パパからメールがきたよ。 晃汰とは上手くいってるか? って・・・」
  「なんて返信した?」
  「上手くやってるよって。 でも、まだそうゆう恋はしてないけど って付け加えておいた」
  「その方が安心するだろうネ」
 口元に笑みを作り、海に向かって置いてある2人掛けのベンチに座った。 後から、花音も座った。
  「・・・幸せ」
 頭を僕の肩に寄せながら花音が呟いた。 その答えとして、僕は花音の頭を撫でた。 良い匂いが漂ってくる。
 
 その一部始終を、背後の林から見ていた人たちがいる。 無論、さっきのメンバーたちである。 多分、京介が追跡したのだろう。 
  「なに、あれ!? 超ロマンチックなんだけど!」
 優子さんが小声で騒ぐ。
  「マンガみたい」
 たかみなさんが熱心に監察する。
  「こりゃあ、明日問い詰めるしかないね」
 しのまりさんが不気味な笑みを浮かべる。
  (・・・この人達、本当にアイドルしておいていいのか!?)
 京介は心の中で本気でそう考えた。
 
  「さ、帰ろうか。 皆も心配しているだろうし・・・」
  「うん。 そうだね」
 2人は腰を浮かせ、海とは逆の方向に歩きだした。 が、2,3歩歩いて立ち止まった。
  「どうしたの?」
 花音が心配そうに訊いてきた。 僕は ちょっと待ってて と言って、目の前の林に近づいた。 今は、SOCOMNを抜かなかった。 ポケットから爆竹を取り出し、ライターで火をを点けて林の傍に投げ込んだ。 
 爆発と同時に、人影が姿を現す。 その光景に僕は吹き出さずにはいられなかった。
  「なんてことしやがる!!」
 京介が怒鳴った。 笑いながら謝った。
  「あ〜、びっくりした」
 あっさんが半分泣きながら言った。
  「あ〜楽しかった」
 僕のこの言葉に、皆は 麻里子に匹敵するドSだ!! と、京介を含むメンバーは心の中で怯えた。

Zodiac ( 2013/08/18(日) 20:40 )