99 story 〜家族再集結〜
久しぶりに実家に帰ってきた。 帰ってきたというよりかは、強制的に帰ってこさせられたと言うべきか。 しかも両親と大学生の兄も揃っていて、なにやら深刻な問題が勃発したのかもしれない・・・
「んで、皆暗い顔してどーしたんだよ。 脅迫状でも届いたのかよ」
せっかくまどかとのデートを断って帰ってきたので、怒りが僕の中に満ち溢れている。 そんな苛立ちを口調に出し、荷物と上着をじいやに預けながら椅子にもたれた。足と腕をおもむろに組み、相対する父親を睨んだ。
「そんな怖い顔をすんなよ。 実はな、父さんと母さんはまた日本に戻ってこれることになったんだ。 また4人で暮らせるんだ」
まだ40前の親父は、嬉しそうに眼を細めながら僕と兄を見た。 さっきまでの暗いムードとは真逆な明るいニュースを聞かされた僕は、開いた口がなかなか塞がらない。
その後、久し振りに4人揃っての夕食をとった。 いつもは1人でじいやに愚痴をこぼしながら食べていた料理も、4人揃って食べると何十倍も美味しく感じられる。 こんなにもダイニングテーブルが狭く感じられたのは、とてつもなく久し振りだ。
「イギリスだと日本の情報はほとんど入ってこなくてさ。 どういうことが日本で起きてるのかさっぱり分からなくてさ」
食後のワインを味わいながら、父はテレビのスイッチを入れた。 すると、京介と僕が出演している映画のCMがちょうど流れた。 僕と京介が銃を撃っているシーンが流れ、何人かのメンバーと共に宣伝をしているシーンも流れた。 次のCMに切り替わると、父はグラスを傾けて僕に訊いてきた。
「仕事は楽しいか?」
そんな言葉が父の口から出てくるとは思っていなかったので、思わず父の方に向いた。父は柔らかな笑顔を浮かべている。
「凄い楽しいよ。 皆凄い素敵だしかっこいいし、スタッフさんとかも凄い人達が集まって・・・ 毎日が本当に新鮮だし、刺激的だし・・・」
「そうか。 そんならよかった。 お前の事だから周りと上手くいかなくて、てっきり投げ出してるんじゃないかと思ったよ」
「んな訳ないだろ。 ちゃんとプロ意識もってやってるよ」
悪戯な笑顔を父に向けた僕は、傍に置いてあったスマホを手に取って立ち上がった。
「明日も仕事だから、もう寝るよ」
こんな日常的に当たり前な言葉を父さんに向かって言ったのは、何年振りだろう。 そんなことを考えながら、父の返答を待った。
「あ、まだ話があるんだ」
少し焦って僕を引きとめた父は、じいやにワインのおかわりを注いでもらいながら、今度は真剣な顔で僕を見た。 その表情にただならぬものを感じた僕は、父の正面のソファに腰掛けて足を組む。
「晃汰、イギリスで一緒に働かないか?」