AKBの執事兼スタッフ - 第16章 麻友さんプロデュース
92 storys 〜ROCKとアイドル〜
 学園祭の夜に麻友さんから依頼された新曲を、僕は自宅のプライベートスタジオに籠って作っている。 熊とやりあった傷もほぼ完治し、リハビリも難なくこなすことができた僕は、まだ気休めで巻いている包帯を摩りながら5本線と睨み合っている。

  「メロディラインはギターだよな・・・ シンセだと変にアイドルっぽくなっちゃうし」

ギターの弦を1弦ずつ弾きながら、独り言をつぶやく。 いろいろなコードを弾いて響きを確認しては、それに合うエフェクターを踏む。 いくつかのコードの流れが頭の中で一直線になった時、PCに内蔵されたカメラで手の動きと音を撮る。 基本的なテンポやリズムは既に決まっていたからコードを組み立てるのは容易だったし、だいたいのイメージは確認できている。 ドラムはシンセで打ち込み、その次にベースを録音して徐々に曲の土台を構築していく。 ギターはリズムとリードの2本を録り、最後にシンセサイザーを入れて完了だ。 完成した曲に、思いつくままに鼻歌や嘘っぱちなワードでメロディをのせる。 何回かのテイクを録り終え、それを端末にコピーしてスタジオを出た。 窓の外は既に朝日が昇ろうとしていて、夜空と朝焼けの見事なコントラストがとても綺麗だ。 思わず写真に収めた僕は、なんの躊躇いもなくツイッターとグーグルプラスにこの様子を投稿した。 新曲を作っていたことも添えて書いたが、麻友さんの名前は出していないし、ましてや誰の曲とも明確にしていない。 

 専属のシェフが腕によりをかけた朝食を、作った本人と談笑しながら食べる。 僕の家は使用人と主人達との仲が凄く良く、こうして会話するのも日常茶飯事だ。 好き嫌いが多い僕の要望にも嫌な顔ひとつせずに作ってくれるし、和・洋・中とジャンルは幅広い。 この福田シェフはとてもきさくな人で、コック服姿で話しかけてきてくれるのがとても嬉しい。 福田さんやその他のスタッフは嫌と言うのだが、僕は家にいる使用人達には敬語で接している。 かたっ苦しいものではないのだが、最低限の言葉の使い方は守っているつもりだ。 

 ごちそうさまと言ってダイニングを後にし、支度をする為に自分の部屋に向かった。 自分の部屋に何時間ぶりかに入った途端、極度の睡魔に襲われた。 丸1日寝ていないので眠くなるのは当たり前だが、これから仕事だということを忘れてはならない。 だが、自分の運転で現場に向かうのは危ないと判断したので、京介に乗せて行ってもらうことにした。 2コールもしないうちに出た受話器の向こうの相棒は、2つ返事で承諾してくれた。

  「じゃあ、行ってくるよ」

  「行ってらっしゃいませ」

 じいやにいつも通り出発の挨拶をし、木製の大きな扉を抜けて外に出る。 玄関ロータリーには既に京介が到着していて、僕が出てくるのを今か今かと待ちわびていた。

  「昨日の9時ぐらいから、ずっと麻友さんの新曲つくってたんだよ」

京介の車に乗り込みながら、ことの成り行きを説明する。 笑いながらハンドルを切る相棒の横顔を見ながら、僕はスマホをチェックする。 500件を超えるコメントと1000を超すプラス1がきていて、読み込むのに時間がかかった。

  「どんな感じに仕上がった?」

ギアを変えながら、運転席の京介が訊いてきた。

  「聴いてからのお楽しみだよ」

悪戯な笑顔を作りながら、僕はバッグから取り出したファッションサングラスをかけた。 執事2人を乗せた車は、メンバー達でごった返す現場に真っ直ぐ向かう。

Zodiac ( 2014/05/09(金) 22:05 )