AKBの執事兼スタッフ


















小説トップ
第15章 合宿
89 storys 〜合宿7日目 2 逆ドッキリ〜
 最後のレッスンを終え、メンバー達は打ち上げが始まる前に荷物をまとめる。 打ち上げが終わった翌朝に出発なので、支度をする時間を今に持ってきたのだ。 そんなメンバー達に気付かれてはいけない僕は、ずっと自室に閉じ籠っていることにした。 本当ならば今頃はサウンドチェックでステージにいる頃なのに、怪我のおかげで一人寂しく部屋にいるのだ。


  「もう出て行ってもいいか・・・?」

 待ちきれなくなった僕は、ついに京介に催促の電話を入れた。 ちょうど今秋元さんの話が始まったらしく、早く来るように言われた。 少しイラつきながらも部屋を出て、エレベーターに乗った。 頭の中でどうやって登場しようか妄想を膨らませ、たくさんの案を出す。 どれもこれもアーティストになりきった感があるが、久し振りの機会なのでやりたいことをやりたい。

  「もうキャップさんとまどかには話してあるから。 あとはお前が揃えば完璧だ」

舞台袖で再会した京介は、僕が持って来ていた黒のテレキャスを手渡してきた。 それを僕は鼻で笑いながら受け取り、肩にかけた。 いつもの位置にボディが下げられた時、Cのコードをひとかきして感覚を確かめた。 

  「キャップさんとまどかは、お前が登場した後にステージに上がってくる設定だから。 勝手に余韻に浸ってればいいよ」

悪戯な笑顔を向けてきた京介は、そう言ってどこかに消えて行った。 案内された場所に立ち、登場を今かと待ち構えた。 そのうち、京介の声が会場内に聞こえ始めた。 相変わらず巧いトークをかましている。 話は先日のクマ事件に切り替わり、場の雰囲気は暗幕越しにも分かるくらい黒くなっていった。 だが、京介の巧みな話術で持ち直し、とうとう僕の登場の時間だ。

 その時、一気に照明が消えて辺りは真っ暗になった。 演出かと思っていたが、メンバーの悲鳴を聞く限りではそうではないらしい。 おまけに、停電を知らせるアナウンスまで流れ出しちゃったもんだから、始末に置けない。 目の前の暗幕を通してもメンバー達の悲鳴は痛いほど聞こえてくる。 

  「あと1分程で自家発電に切り替わります」

再点灯のアナウンスが入り、メンバー達の悲鳴はようやく収まった。 僕はギターのネックを握って今度こそスタンバイした。 本当に1分程で照明がつき、暗い視界に慣れていた眼を細めた。 

  「せ〜の!」

 キャップさんの威勢のいい声が会場内に響き、僕は何事かと影を作っていた右腕をすぐにどけて眼を見開いた。 なんとメンバー達やスタッフ、秋元さんや戸賀崎さんまで立ち上がってこっちを見ている。 

  「晃汰、退院おめでとう〜!」

少女たちの高い声やスタッフ達の低い声がミックスされ、僕が聴いたことがないようなハーモニーを作っていた。 呆気にとられていた僕に、2人のメンバーが花束を持って近づいてきた。 それは、僕が熊から守り通した咲良と碧唯だ。 2人の眼には涙が溜まっていて、僕の涙腺はさっきのおめでとうの言葉と、2人からのもらい泣きで一気に緩んでしまった。 マイクを渡してくる京介に花束を預け、左手でネックを握りながら涙声で話し始めた。


  「えっと・・・」

 涙で上手く喋れず、言葉に詰まってしまっている。 涙を見られたくないがためにわざと天井を仰いだり、横を向いたりしている。 いくらかマシになり、ようやくキッカケとなる言葉を見つけることができた。

  「まずは、ここにいるメンバーやスタッフ全員が無事に最終日を迎えられたことを、秋元さんをはじめとするスタッフ達は凄い喜んでいると思います。 先日の事故で合宿は中止になると思いましたが、皆さんの頑張りで最後まで続けられたと思います・・・ 咲良と碧唯と一緒に熊に襲われた時は死ぬんじゃないかと思いましたが、2人の言葉が僕を生かしてくれました。 2人には、本当に感謝しています」

ここで、今まで我慢していた涙を拭った。 メンバー達も手を目元に持っていく仕草が目立ってきた。 その光景に涙腺は崩壊寸前だったが、ここで号泣したら後が続かない。 僕は歯を食いしばって堪えた。
 

■筆者メッセージ
更新遅くなってすいません・・・
感想頂けると嬉しいです!!
Zodiac ( 2014/05/01(木) 22:18 )