AKBの執事兼スタッフ


















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第15章 合宿
72 storys 〜合宿3日目 2  恋愛総選挙〜
  「フォークは手首を固定して投げるから、肘と肩にダメージがくるんだよ。 落ちる系だったら、チェンジアップとかいいんじゃないか?」

 朝ごはんになっても、しつこく変化球についてわかはるが尋ねてくる。 しかたなく彼女の意向に沿った球種を考える。 どうやら落ちるボールを投げたいらしく、頑なに譲らない。 結局チェンジアップで渋々納得した彼女は、明日の朝練に向けて猛練習を始めるらしい。

  「しばらく野球の話とかできてなかったから、正直嬉しいんだよね・・・」

 偶然エレベーターで一緒になった咲良に、さっきのやりとりの一部始終を説明した。だが、スマホを弄りながら聞いてくれていた咲良がこっちを向いて口を開いた。

  「ちょっと話があるんだけど、いいかな・・・?」

咲良の眼が、何かを話そうとしている。 僕は無言で手すりに寄りかかり、ジャージの上着のジッパーを緩めた。 こちらの意図を察した咲良は、屋上庭園のある最上階のボタンを押した。

  「お前が改まってする話なんだから、よほど大事なんだろ?」

 すっかり昇った太陽に目を細めながら、先に降りた咲良に確かめる。 応答はなく、彼女は2人掛けのベンチに腰かけた。 あえてそこには座らず、背もたれに両手をついた。 何分かの沈黙が続き、どちらも話のキッカケを掴めずにいた。 そのうち、咲良のため息を皮切りに、咲良は話し始めた。

  「・・・晃汰ってさ、好きな人とかいるの・・・?」

意表を突かれた質問だった。 自分でも動揺しているのが分かるし、平然を無理に装おうとしているのが震える足で伝わってくる。

  「好きな人か・・・ 好きな人ネ・・・」

お茶を濁しながらも、頭の中ではまどかの後姿が真っ先に浮かんだ。 だが、それを素直に咲良に話すべきなのか、迷っている。

  「私たちメンバーが両想いしちゃいけないってことは充分分かってる。 けど、これだけは言っておきたい・・・」

息を呑んで落ち着く。 深呼吸を1回し、咲良はこっちに振り向いて言った。

  「まどか、晃汰のことが好きなんだよ。 もちろん私だって好きだけど、まどかは晃汰のこと、マジで好きなんだよ・・・ 私が言える立場じゃないけど、晃汰だってわかってるでしょ?」

何も言えないし、何も感じない。 ただ、俺とまどかが両想いって事実だけが、やけに頭の中で反響している。 イケナイ恋愛だと知ってても、走り出した感情はブレーキを持っていない。

  「・・・メンバーとの両想いはご法度だぜ。 もちろん、お前達が誰を好きになろうと勝手だけど、お互いは駄目だぜ・・・ 俺だって片思いしてる奴はいるよ。 けどスタッフっていう立場上、色眼鏡で見ることができないんだよ。 好きな女の子にラブレターも渡せないなんて、結構ツライんだぜ・・・」

 苦笑いをしながら、落下防止用の柵に腕をのせた。 目の前の景色に、何故かまどかの横顔だけがフラッシュバックしている。 

■筆者メッセージ
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Zodiac ( 2014/02/25(火) 22:25 )