AKBの執事兼スタッフ


















小説トップ
第15章 合宿
68 storys 〜合宿1日目 チエック・イン〜
 予てから話があった合宿が、今日から始まろうとしていた。 僕と京介はHKTの担当なので、他のグループのメンバーとは会えないのだ。 

  「山道のドライブもなかなかよかったな」

 周りを森に囲まれたホテルに到着し、助手席から降りた京介はサングラスを外しながら言った。

  「こうゆうときはマニュアルがいいんだよ」

 
僕も車を降りて、サングラスを外す。 HKTメンバーや秋元さんたちが乗るバスと続いて来る予定だったが、久し振りの山道に調子にのって早く着いてしまった。

 待ちくたびれて温かいココアでも買おうとした時、ご一行を乗せた2台のバスがホテルの駐車場に入ってきた。 自販機に入れかけた小銭をポケットに滑り落とし、停まったバスに近づいた。 どっちに誰が乗っているかなんて分からなかったが、取りあえず1台目のバスに近づいてみた。 

  「お前たち、速すぎるんだよ」

 苦笑いを浮かべながら最初に降りてきたのは、総支配人だ。 行きのバスだけでこんなに疲れた顔をしているのでは、先が思いやられる。 だが、こんなことでヘタレていては総支配人は務まらない。 
 
 続いて、メンバー達が降りてきた。 どうやら、秋元さんは2号車に乗っているらしい。 そして、面倒くさい奴に絡まれてしまった・・・

  「明太子! たらこ! 焼かれて、焼き明太子!!」
 
  「・・・あ、京介? あの件さ・・・」

  「ちょっと先輩! 私のギャグ見てくださいよ!」

ムラシゲのダル絡みが始まった。 これを永遠に見せられるんだから困ったものだ。

  「あ、竜恩寺先輩でもいいですよ!!」

今度は京介が捕まった。 この隙に僕は走ってホテルに逃げ込んだ。

 貸し切りのホテルにはフリーの客がおらず、いわば関係者と従業員しかホテル内にいないのだ。 僕や京介はこんな光景に慣れてはいたが、メンバー達は慣れない環境に少し戸惑っているように思えた。 そんな中で部屋割りがされ、なんと僕たちスタッフは1人部屋が用意された。 まあ、総部屋数に対してのこちらの人数を考えれば妥当だけど、いつも京介と相部屋だったから驚いた。
 
 キャリーバッグを転がしてエレベーターに乗る。 僕の後に続いて京介・まどか・なつさん・ボス の順で乗ってきた。 みんな長旅で疲れているのか、口数が少ない。 まどかは何故か変装用のサングラスをかけているし、ボスとなつさんはスマホをいじっている。  扉の両脇に僕と京介がいて、その奥には3人がいる。 3人の背中の窓に映る山々を見物したところで、ベルが鳴って扉が開いた。 このフロアでは僕とまどか以外の全員が降りて行った。 

  「あ、晃汰いたの・・・?」

 やっと口を開いたまどかは、わざとらしくサングラスを外しながら話しかけてきた。

  「1回からいたし。 よく見てろよ」

  「そんな意識して見るわけにはいかないでしょ」

まどかが笑って答える。

  「そうか? 俺は割と意識してお前の事見てるけど」

冗談交じりで言ったつもりだったが、本心が殆どだということはどちらもわかっている。 やがてまどかが降りる。 延長ボタンを押して、何秒か相対する。

  「少し寝とけよ。 疲れてるんだろ?」

彼女は前髪をかきあげながら返す。

  「疲れてないし。 全然大丈夫だし」
女神のような笑顔を見届け、閉ボタンを押した。 1人になった籠の中で、背伸びをして自分のフロアを待った。

Zodiac ( 2014/02/09(日) 18:22 )