64 storys 〜FNS歌謡祭 リハ 2〜
「初めまして。 AKBのスタッフの丸山晃汰です。 今日は宜しくお願いします」
じゃんけん選抜の曲、「鈴懸の・・・」を織田哲郎さんとコラボさせて頂くにあたって、ちゃんと挨拶をしておこうと思った。 秋元さんと古くから親交があり、AKBにも度々楽曲を提供してくれる。
「丸山君、知ってるよ。 話題は音楽業界にまで広がってるよ。 僕も君の演奏を聴かせてもらったけど、凄い巧いよ」
日本を代表する作曲家に褒められて、とても嬉しかった。 さらに、織田さんは続ける。
「実は秋元君に、FNSで君とギターを弾きたいと打診したんだよ。 けど、秋元は《晃汰はTVに出たがらない》って、言ってた。 で、君に直接訊きたいんだけど、僕とコラボしてくれないかな?」
急な話なんだけど・・・ と彼は語尾を濁した。 ここで、僕の頭には2つの思いがぶつかった。
1つは、この作曲家と一緒にセッションしたいということ。 こんな機会はそうそう無いし、布袋さんとはまた違うプレイスタイルの演者とも交わってみたいのだ。
だが2つ目は、あくまで僕はAKBのスタッフだということ。 アーティストな訳ではないし、スタッフとして給料を貰っている以上は駄目だろうということ。
「じゃあさ、ギターが巧いスタッフでいいんじゃない?」
自分の中の葛藤を全て織田さんに話した後、織田さんは口を開いた。
「AKBのサポートメンバーみたいな感じで出れば、誰も違和感を感じないと思うよ。 実際、君自身が嫌がっているだけかもしれないけど・・・」
「・・・宜しくお願いします」
言い訳が見つからなかった。 もっと言ってしまえば、断る理由が無い。 僕はとうとう、織田さんとギターを共に弾くことになった。 急な話ではあったが、顔色ひとつ変えずに台本を書き換えるフジテレビの人達も凄かった。
僕はある人にメールをした。 あっちはたぶん朝だけど、この興奮を押さえ切れないでいた。 さらに、彼のシグネチャーモデルのギターの使用許可の有無も書いた。
「TVデビューおめでとう! こっちはリアルタイムではやらないから、日本のスタッフに録画してもらったDVDを、家族で見させてもらうよ。 織田さんは僕と違ってシンプルなサウンドでシンプルに弾くスタイルだから、僕と演るより全然ラクだと思うよ。 僕のシグネチャーは、全然使ってくれて構わないよ。 これからも、TYとかライブでも使ってください。 布袋」
長文で返してくれる布袋さんの愛情を感じ、ギュッと携帯を握りしめた。