63 storys 〜FNS歌謡祭 リハ 1〜
冬になると、生放送の歌番組が増えてくる。 どれもこれも歴史があるものが多いから、下手な演出はこちら側として絶対に許されない。 今回はFNS歌謡祭の担当をすることになった。 この番組は著名なアーティスト同士がコラボレートすることで知られ、我ら48グループも多くのアーティスト達と共演させていただく予定だ。
「織田哲郎さんに相川七瀬さん・・・ NMBは生バンド演奏かよ・・・」
事前に渡されていた資料を、前日リハーサル前になって初めて眺めた。 普段はこんなことはないんだが、多忙に多忙を極めていたから仕方なくもなかった。
「さや姉さんがPRSで演るんだってよ。 ドラムはけいっちさんで、トランペットはまーつんさんだってよ」
隣でメンバーのバミリをチェックしている京介が、補足を入れてきた。 その直後、噂をしていた集団がリハーサルを始めた。 さや姉さんの赤いPRSは妖艶な光を纏っていて、セクシーに見えた。 その周りで歌うメンバー達は、少し引きつった顔をしている。 なかなか慣れない生歌で、緊張しているのは目に見えていた。 そんな中、楽器隊の肝が据わった演奏は見事だった。
「なんや、晃汰。 聴いてんか・・・」
リハーサルを終えたばかりのNMBの控室に行き、さや姉さんを訪ねた。 彼女はまだ緊張で震えている手を、僕に差し出してきた。
「今日はどんなセッティングで演るんですか?」
ギターを演っている人間でしか分からない言葉を、僕は姉さんにぶつけた。姉さんはニヤッと笑って、喋りだした。
「今回はバックに茉由のトランペットに恵のドラム、恵美加のピアノがあったから、どうしても歪みすぎはよくないと思ったんだよ。 だから今日は、オーバードライブのゲインを10時方向にして、イコライザーで少し低音域をブーストして、うっすらとコーラスを入れたよ。 いつもの私じゃ考えられないシステムだよ」
姉さんは苦笑いを浮かべながら、傍に立ててあったギターを手にした。
「僕のセッティングと、少し似てますネ」
「そうだよ。 だって、晃汰のを参考にしてシステム作ったんだもん。 晃汰は素のギターに近くて音の広がりが凄かったから、ちょっと真似してみたんだよ」
いたずらっ子のように舌を出しながら笑う姉さんは、抱えていたギターをゆっくり弾いた。 アンプに繋いでいない生の音だったが、とても響きが良かった。