AKBの執事兼スタッフ - 第11章 2次元vsROCK
56 storys 〜仕事の依頼〜
  「何がいいですか? 麻友さんの好きなものでいいですよ」

  「・・・丸ちゃんのおすすめのところがいいな。 皆、丸ちゃんはグルメだって言ってるからさ」
 
 助手席の麻友さんは、そろえた前髪を微動だにさせずに振り向きながらこちらを見た。 パッチリとした大きな瞳をもう少し見ていたかったが、信号が青に変わったので前を向いた。

  「来るなら、連絡のひとつくらいよこせよ」

 クラスの友達の一家が経営している洋食屋にきた。 お父さんがやり手の経営者で、既に視点も何軒もできているらしい。 

  「渡辺麻友と2人なんだよ。 個室空いてるか?」

ウェイターとして手伝っている友達に、周りの客に聞かれないように耳打ちした。 彼はウィンクをして人差し指をクイックイッとした。 

  「友達の一家がやってる店なんですよ。 よく来させてもらうんですけど、とてもおいしいんですよ」

個室に入り、麻友さんと相対して座った。 まずは飲み物を注文した。 麻友さんはアイスティー、僕はウーロン茶を頼んだ。
  
  「で、僕になんの用ですか?」

 グラスを軽く重ね合い一口飲んだ後、笑顔で麻友さんに今夜の本題をぶつけた。 グラスを置いて顔の前で手を組んだ麻友さんは、一直線に僕を見つめてきた。 僕も負けじと見つめ返し、麻友さんの口元が微かに動くのが分かった。

  「新曲を作ってほしいんだけど、いいかな・・・?」

グラスに口をつけながら聞いていたが、さほど驚きもしなかった。 曲を書いてくれと頼まれたのはこれが2回目だし、気心知れたメンバーからの依頼では尚更驚くこともない。 

  「僕なんかでいいんですか? ご期待にそぐわない楽曲が出てきますよ」

麻友さんの趣味と僕の趣味は違う。 二次元系を好む麻友さんと、激しくも洗練されたROCKを好む僕。 当然音楽的な好みも違うし、歌詞の世界だって違ってくる。 共通点と言えば、 

   THEE MICHELLE GUN ELEPHANT(ミッシェル・ガン・エレファント)

を聴くぐらいだろう。 このバンドのギタリストで今は亡き アベフトシ がかつて布袋さんユニットを組んでいた吉川晃司と親交があったという理由で僕は聴いていた。 

  「アイドルの王道曲に、ROCKのエッセンスを混ぜた曲にしてほしいな・・・」

 運ばれてきたパスタを巻きながら、麻友さんはいろいろと条件を話した。 今回も作詞と作曲の両方を依頼され、仕事がしやすい環境が整った。 僕を信用して依頼してくれた麻友さんの期待が、これからの作業のモチベーションとなるのは目に見えていた。 

Zodiac ( 2013/12/22(日) 20:25 )