55 storys 〜ハイタッチ会〜
「・・・では、トークはこの辺にしておきますか」
進行役の僕は、区切りのいいところで最後の追い打ちをかけることにした。最後の企画、企画といっても、ただメンバーが退場の際に生徒全員にハイタッチをしていくだけという単純なものだ。 メンバーの安全を考慮して、生徒が動くのではなく、メンバーが直々に動くのだ。
「みなさん、そろそろお時間にも限りがありまして・・・」
わざと残念そうに、声を押し殺しながらマイクに声を吹き込んだ。 生徒達の嘆く声を聞くのがとても愉快だった。
「最後に、メンバーが客席を周りながら皆さんにハイタッチをします。 みなさんどうか、席を立たずに待っていてください」
皆が同じような反応をとるので、その笑いを堪えているのにも疲れた。 だが、これこそがメンバー達の魅力を鏡写しにしているのだろうと解釈した。
「よし、行こう!」
たかみなさんが先陣を切って客席に歩いていく。 悲鳴に似た歓声が、近づいてくるメンバー達を受け入れていく。 僕は莉乃さんと玲奈さんに姉さんについていき、京介は優子さんとこじはるさんについていった。
「ありがと〜 ありがと〜」
生徒ひとりひとりとハイタッチを交わし、メンバーは1つの出入り口に再集結した。
「以上、丸山晃汰・・・」
「竜恩寺京介と・・・」
「AKB48でした〜!」
僕、京介、たかみなさんの順でマイクを渡し、3人で最後の挨拶をして退場した。 体育館の傍に生徒用の宿舎があり、そこまで移動した。 空はすっかり暗くなっており、三日月が浮かんでいた。
「晃汰、凄いかっこよかったよ」
前髪を珍しく崩して近づいてきたのは、まゆゆさんだった。 前髪を崩した麻友さんを見るのは初めてだったので、思わず凝視してしまった。
「ちょっと今夜、空いてる・・・?」
「空いてますよ。 ご飯でも行きますか?」
今夜はAKBの方の打ち上げが入ると思っていたので、クラスの打ち上げは明日に延ばしておいてもらった。 だが、肝心のAKBの打ち上げは皆の都合が合わなくて中止となった。 よって、僕は今夜は真っ直ぐ家に帰ろうと思っていた。
「いいね。 もうすぐ行ける?」
「大丈夫ですよ。 麻友さん、この後の仕事は?」
僕の車に案内しながら、麻友さんの予定を訊いた。 今日の仕事は無いらしく、明日の仕事も昼ぐらいからだという。 だから、今夜は何時でもOKらしい・・・