AKBの執事兼スタッフ


















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第9章 やっとスタッフに戻れました
47 storys 〜思い出のギター〜
  「で、Aコードはここを3つ押さえるんだよ」
  「・・・うわ、キツイ・・・!」
  「がんばれ、柊!!」
 ksgkこと藪下柊に、お昼休憩にギターを教えている。 話をきくと、どうやらNMBのオリジナル公演でバンド形式の楽曲が披露されるらしい。 そこに、ギターボーカルとして柊が確定したというわけらしい。 こうなれば、ギター経験者の僕が教えなくて誰が教えるのかという話になる。 ちょうど同じ時間帯に休憩になったさや姉さんも駆け付けてくれている。 
  「まだ指先だけで押さえられるからラクだよ。 バレーコードとか、1本の指で何弦も押さえるんだから」
 柊の左手を回復させる為に、マッサージをしてやっている。 マッサージといっても、指で手のひらを押す至ってシンプルなものだ。
  「晃汰はなんでギター始めたの?」
相変わらずタメ口が治らない柊に、僕は回想しながら語った。

 僕の中での1番古い記憶は、ブラウン管の中で踊りながら歌う氷室京介、誰も使っていない魅力的なギターで、圧倒的なテクニックを駆使する布袋さん。無意識に眺めていた画面の中で、すでに解散していた彼らは生き続けていた。幼い頃から英才教育でピアノやバイオリンをやらされていた僕は、ある日父と珍しくドライブをしていた。 久し振りの父との空間で、すべてが新鮮だったことは今でも鮮明に覚えている。 流れていた曲や見えていた景色・・・ 赤信号で停車すると、周りを見渡すのが当時でも現在でも僕の癖だった。 助手席の窓から外を見たとき、僕の眼にはあの布袋さんが使っているギターと同じ柄のギターが、店のショーウィンドウに飾られていたのだ。 大声で父に車を路肩に移動させ、店の扉を勢いよく開いた。 
  「布袋さんのギターください!!」
 店主の位置も確認しないまま、窓辺の布袋モデルを指さして叫んだ。 億でギターのチューニングをしていた店主は、ゆっくりと僕に近づいてきてこう言った。
  「君は幼いのに、良いものを知っているね・・・」
ニッコリと笑った店主は、布袋モデルをスタンドから外して持ってきてくれた。 それだけではなく、ストラップを短めにして僕の肩にかけてくれたのだ。 まだコードさえも知らない僕は、小さい手でやっとこネックを握った。その時、雷にうたれたように電撃が体中に走った。 
  「弾いてみるかい?」
深い微笑みを浮かべた店主は、ギターとアンプをシールドで繋いでくれた。 そしていくつかの簡単なコードを教えてもらい、初めて自分で叩いたサウンドをアンプから聴いた。 ピアノよりも激しく、バイオリンよりもエレクトリックなサウンドに1発で惚れてしまった。 そのギターとアンプ、シールドを自分の部屋に持ち帰った夜、ギターを構えた自分の姿を鏡に映した。 ピアノやバイオリンを演っているときよりも、何倍も自分がアーティストに見えた。

  「・・・ってわけ。 これが、俺とギターの出会いだよ」
 柊がネックを握り始めたころ、僕の語りは終了した。 意外なことに、さや姉さんと柊は真剣にきいていてくれた。 あまり自分の事を話したがらない僕が、こんないかたるなんて珍しいと我ながら思った。
  「今度、その思い出のギター弾かせてよ」
柊が覚えたてのAコードをジャカジャカかき鳴らしながら言った。
  「まともに弾けるようになったら、考えてやるよ」
ジュースを飲み干して、腰を上げた。 次の部が始まるので、配置につく。

Zodiac ( 2013/12/01(日) 21:27 )