AKBの執事兼スタッフ - 第9章 やっとスタッフに戻れました
45 storys 〜苦渋の決断〜
  「俺の本業は執事兼スタッフなんだぜ!? 作曲までは楽しくやらせてもらったけど、映画の主役級になんざ俺は興味ないんだよ」
 液晶と睨み合いをしながら、背後の花音に訴えた。 
  「最近は表に出る仕事ばかりだ・・・ これじゃあなんの為の執事資格なのか、わかったもんじゃないよ」
花音は、まだ応答しない。
  「そもそも、俺は花音を見守りたいから執事資格をとってスタッフになったんだ。あくまで裏方の仕事を望んでる俺に、なんで映画だの雑誌だの仕事がくるんだよ」
  「・・・晃汰は芸能人として進ませたいんだよ」
ここにきて、やっとお姫さんが口を開いた。
  「顔だって良いし背も高い。 歌も巧いしギターもできる。 これだけのセンスが揃った人が、芸能界に入らなきゃおかしいよ」
  「入ったところで、猿回しの猿になるようなもんだろ」
反論を即座に否定する。
  「俺には今の環境が1番合ってる。 メディア露出は多少増えたとしても、あくまでAKBのスタッフとして働きたいんだよ。 それに、芸能人になればスキャンダルの標的になる。 俺はお前のもんだぜ。 ついでに言っとくけど、お前は俺のもんだからな。 誰にも渡さない」
 そして、俺は内に秘めた最悪のシナリオを口に出そうとした。
  「あのさ・・・」
きれいに花音と同じ単語ではもった。 
  「いいよ、晃汰から言って・・・」
花音に先を譲られたので、咳を1つして本題に入った。
  「花音、真剣に聞いてほしいんだ・・・」
首を縦に振る花音を液晶画面越しに確認し、続けた。
  「これからのお前の為に、俺たちは離れた方が良いと思う・・・」
机の前に座って初めて花音の方を向いた。 そこには、眼を真っ赤にして涙をこらえる僕の天使がいた。
  「なんで・・・ なんで!?」
目元を抑える花音を見ると、言葉が詰まる。 だが、ここは男として決断しなければならない。
  「お前がこの先成長して、メディアからも注目されるようになる。 そんな時に俺とのスキャンダルが報じられたらお終いだ。 お前の将来を壊したくないんだ・・・」
  「でも・・・ 別れなくてもいいじゃん・・・」
  「誰が分かれるなんて言った?」
椅子から立ち上がり、花音の前にしゃがんだ。 そして、花音の眼をじっと見つめた。
  「お前がSKEを卒業するまで待ってる。 他の誰とも付き合わないし結婚もしない。 だから、お前も俺のことを待っててくれ・・・」
とうとう涙腺が崩壊した花音は、僕の胸に飛び込んだ。 
 どれくらい経ったろうか・・・ 僕の服はすっかり涙で濡れ、花音はいまだにしがみついている。
  「もういいだろ・・・?」
胸の花音の頭を撫でる。 反応をしないので無理やり剥がすと、静かに寝息をたてている天使の横顔があった。
  「ったく、しょうがねぇな・・・」
お姫様抱っこをして立ち上がると、ベッドに寝かせた。 僕はベッドの脇に毛布を敷いて眠った。

Zodiac ( 2013/10/16(水) 21:00 )