プロローグ
1
イヤホンからは最近流行りのバンドの曲が流れている。

―よくこんな高音でるな

この曲を聴くといつもそんな事を考える。そんなどうでもいい事を頭の中で巡らせながら、いつもと何も変わらぬ通学路を歩く。

しばらくすると「おはよう」の声と同時に背中に衝撃が走る。これもいつもと変わらない。彼女と出会ってからはずっと。

僕が振り返ると、いつものように屈託のない笑顔を向けてくる彼女がいる。

「いつも反応が薄いなハルは。そんなんじゃ彼女できないぞ」

「うるせぇな、余計なお世話だ。彼氏できたこともないやつに、そんなこと言われたくないね」

「私は作れないんじゃなくて、作らないだけです」

彼女は腕を組んで、頬を膨らます。

たしかに彼女の言葉はその通りだと思う。彼女は世間一般でいう可愛い部類に入る。彼女が告白されている現場を何度も目撃した。それだけでなく、男女問わずに慕われている。

その理由は、彼女がただ単に可愛いからというだけではなく、人の懐に入るのが上手く、誰とでも分け隔てなく接する優しさを持っているからだ。だからこそは彼女は皆から慕われる。

それが金村美玖、僕の幼馴染だ。

「二人とも、朝から夫婦喧嘩ご苦労様」

「夫婦じゃない!」

僕と美玖の声が揃う。

「やっぱり息ピッタリじゃん」

ケタケタと肩を揺らしながら、笑うのは、もう一人の僕の幼馴染の白石蒼汰だ。

「ハルと違って、蒼汰はモテるもんね」

「一言余計なんだよ美玖は」

蒼汰は、サッカー部のエースで、Jリーグの浦和レッズから内定を貰っており、世代別の日本代表にも呼ばれる、文字道理凄い奴だ。

それに比べて僕は、同じくサッカー部に所属しているとはいえ、ベンチメンバーに入るのがやっとで、蒼汰には遠く及ばない。

―僕と蒼汰を比べる事じたいが間違っているんだよ

僕の事をよそに、二人はいつも通り楽しそうに話しながら、並んで歩いている。

2人の背中を少し後ろから追い駆ける。

いつの日からだろうこの光景がいつもの風景になったのは。昔は三人横並びで歩いていたのに。

それはたぶんあの日からだろう。蒼汰に向ける彼女の笑顔が、僕に向けられる笑顔とは違うという事に気がついたあの日からだ。

それでも未練がましい僕は、幼馴染という大義名分を使って、彼女の傍に居座る権利を行使する。

―君がいるだけで、それだけでいい

今日も僕はただ彼女の傍にいれるだけで幸せなんだと、僕は僕自身にそう何度も何度も言い聞かせる。




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オレンジ ( 2020/01/15(水) 02:17 )