不器用な僕からあなたへ
第一章
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数日が経ったある日、僕は帰宅途中の学生やサラリーマンが行き交う駅前の噴水の前でカノジョを待っていた。

先日の昼食時の会話での、西野先輩や久保ちゃんの反応を見ても、彼女と1カ月連絡を取っていないのは、流石に良くないと思い、『久しぶりに会いたい』と彼女にLINEを送った。

数時間経ってから『いいよ』と短い返信が送られてきた。それから、日時と場所を決めるやり取りだけをして今日を迎えた。

待ち合わせの時間は21時。時刻は20時40分。少し早く着いたので、噴水の前にあるベンチに腰を掛け、イヤホンで音楽を聴きながら彼女を待つことにした。

下を向いてスマホの画面を見ていると、目の前で誰かが立ち止まった。顔を上げるとそこには西野先輩がいた。

「先輩!?なにしてるんですか?」

「零こそなにしてるん?」

「ちょっと人と待ち合わせてしてて」

「そーなんや、もしかてカノジョ?」

先輩はいつも僕をからかうときの笑顔で質問をしてきた。

「まぁ、そうです」

僕の回答を聞いた先輩の表情が一瞬曇った気がした。しかし、すぐにいつもの表情に戻り、僕の横に腰かけ、僕のイヤホンの片方を奪い耳に入れた。

「あ!このバンドの曲ええよな。ななも好きやで」

「そーなんですね、最近ハマってるんですよね」

何事もなくいつも通り話す西野先輩を見て、自分の気のせいだと思い、少しの時間西野先輩との談笑を楽しんだ。

すると、スマホの一通のメッセージが届いた。カノジョからだ。

『もうすぐ着く。もう着いてる?』

僕はすぐに『もう着いてるよ』と返すと、『了解』と返ってきた。

「彼女さんから連絡?」

「はい。そろそろカノジョ来るらしいんで、僕行きますね。じゃあまた大学で」

ベンチから立ち上がり、その場を離れようとすると服の裾を捕まれる。振り返り西野先輩の方を見ると、目からは涙が流れ落ちていた。そして僕の胸の中に飛び込んできた。

「え?西野先輩?」

しかし、何も言わず僕の胸の中にいる。

「なにかあったんですか?」

先輩は小さく首を横に振る。

「じゃあ、どうして?」

「少しだけこのままでおらせて」

「でも・・・」

「ええから、あと少しだけ」

僕はただ先輩に従う事しかできなかった。だが人込みの中から僕の名前を呼ばれ、声の方へと振り返り、僕はそれをすぐに後悔した。



R.S. ( 2019/07/24(水) 20:17 )