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研究室でのゲームを楽しんだ僕たちは、研究室を出て、帰宅の途についた。帰る方向が同じということもあり、自転車を挟んで僕は久保と並んで歩いている。
研究室で遊んだ後は、こうして一緒に帰ることも少なくない。隣を歩く彼女を見ていると、やはり彼女がゼミ生で人気が飛び抜けて高い理由がわかる。
顔はもちろんのこと、所作全てから彼女が可愛いということが滲み出ている気がする。西野先輩や飛鳥がいなければ、僕も彼女に恋をしていたのかもしれないと並んで歩いていると思うことがある。
「零君どうしたの?私の顔になんかついてる?」
不意に久保と目が合う。
「い、いや、べつになんもないよ」
「ふ〜ん、ならいいや」
彼女の事を見ていた事に気づかれたかと思ったが、彼女はそこまで気にしていないようなので、一安心だ。
「今日、七瀬先輩となんかあった?なんかいつもよりよそよそしかったから」
彼女に僕は動揺を隠せなかった。だが、その理由を言えるわけもない。彼女がいるにも関わらず、西野先輩から好きと言われて、冗談であっても意識してしまっていたなどと。
「そうかな?そんなつもりはなかったんだけどな」
「ふ〜ん、私はてっきり七瀬先輩になにか言われて意識してたのかと思った」
「え!?まさかあれ聞こえてたの?」
「やっぱりなにか言われてたんだぁ。なんて言われたの?」
どうやら僕は彼女の罠にかかってしまったらしい。しかたなく僕は西野先輩との出来事を彼女に話した。
「そーいうことだったんだ。まぁでも零君の反応可愛いからな。七瀬先輩の気持ちもわかるな」
「久保ちゃんまで、そんなこと言わないでよ」
「でもそういうとこも含めて私は零君のことが好きだよ」
久保の告白に一瞬驚きはしたが、さっきの今だ。ここで浮かれてしまうほど、僕は単純じゃない。
「どーせ冗談でしょ?久保ちゃんまで僕のことからかうの?」
たしかに久保からも最近からかわれるようになった。しかも和樹が僕をからかってくるように。でもそれは、僕と彼女の仲が良くなった証拠でもあると思っていたので、嬉しくも感じ少し浮かれていた。からかわれて嬉しいなんて僕は少しMなのかもしれない。
「冗談じゃないのにな…」
久保の小さな呟きに、少し浮かれていた僕は気づきもしなかった。もしこの時この呟きに気づいていたら、僕の『それなり』のあたり前の日常は、変わっていなかったのかもしれない。