不器用な僕からあなたへ
第一章
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A.M.11:00 僕は目を覚ました。身支度と遅めの朝食を済ませ、自転車で15分の場所にある大学へと向かう。

大学3年生となり半年が経過した現在、卒業に必要な単位も、もう少しで取得し終えるので、たくさん授業を取っているわけでもない。先に待つ就職活動を憂鬱に感じながらも、遊びに使える時間も増え、『それなり』に充実していると感じる。

今までの人生も『それなり』に充実して過ごしてきた。『それなり』の偏差値の高校に行き、部活動でも『それなり』に成績を残した。モテたわけではないが、人並みには恋愛もしてきたし、人が青春と呼ぶようなことも経験もしてきたと思う。そして、私立の『それなり』に全国で名前が知られている大学にも進学した。

僕はこの『それなり』の人生になんの不満も持っていなかった。むしろこの先の人生も『それなり』に過ごして、『それなり』に幸せな人生を送ることができると信じて疑わなかった。



大学に到着し、駐輪場に自転車を置き、所属するゼミの教授の研究室へと向かう。

「おっ!零じゃん!」

「遅いよ零君」

研究室に入ると教授はおらず、代わりに同じゼミに所属する橋本和樹と久保史緒里が、ゲームをしていた。

「ごめん、ちょっと寝坊した」

「また?もうしっかりしなよ」

久保は頬少し膨らませ、怒っているという感情を表す。ただその表情は可愛らしく、全く怒っているようには見えない。

彼女は可愛らしい容姿と誰にでも優しい性格の持ち主で、それ故にゼミの中でも男子人気が飛び抜けて高い。

「本当にごめん!昼飯奢るんで許してください」

「しかたないな…今回は許してあげる」

くしゃっとした笑顔を僕に向けてくる。その威力は凄まじく、思わずドキッとしてしまう。

「おい、零なに照れてんだよ。カノジョに言いつけるぞ」

「べ、べつに照れてねぇし。てか、おまえ俺のカノジョに会った事ないだろ」

「なに必死になってんだよ。図星だったか?」

肩を揺らして笑いながら、和樹は僕の事をからかってくる。橋本和樹は高校時代から友達で、僕の親友と呼んでもいい存在だ。

「そういえば、設楽先生は?」

「講義行ったぞ、留守番よろしくって言われたから、久保ちゃんとゲームしてた」

設楽先生の研究室にはゲーム機がたくさんあり、研究室に来ると空きコマの学生が暇つぶしにゲームをしているのも日常茶飯事だ。

「とりあえず、昼飯買いに行ってくる。久保ちゃんと和樹なんかいる?」

「私も行く!和樹君留守番よろしく!」

「りょ、零なんか適当に買ってきて」

「了解」

「あっ!そういえば、午後研究室におまえの愛しの西野先輩来るって設楽先生が言ってたぞ」

ソファに座った状態で、こちらをニヤついた表情で和樹が僕の方を見てくる。いったいいつの話をしているんだあいつは。たしかに僕は西野先輩を気になっていた時期があった。だがそれは1年も前の話だ。

「久保ちゃん行こう」

僕はからかってくる和樹を無視し研究室を出て、久保と近くのコンビニへと向かった。




R.S. ( 2020/01/14(火) 23:54 )