7章
08
サラダ用の野菜を刻んでいると、後ろからお母さんが話しかけてきた。

「東雲君、あなたのおかげね。こうしてあの子が変わったのは」

「いや、そんな」

「うふふ。これからも絵梨花と仲良くしてあげてね?」

「はい、もちろんです」

「あの子、お料理はまだまだだけど、きっといい奥さんになると思うのよねぇ。どうかしら?」

「ええっ?」

「うふふ」

この人は全く掴めない。
本気なのか冗談なのか。
笑いながら調理に戻るお母さん。
チラリと生田の方を見ると、ニコニコしながら料理の完成を待っている。
あんな奥さんがいたら楽しいだろうな。

出来上がった料理を囲み、頂きますの合掌。
テスト勉強の時以来だな、こうして集まってご飯を食べるのは。
お腹だけでなく、心もいっぱいになった。

「そうだ、明日は学校も無いんだし、東雲君さえ良ければこのままお料理教えて貰いに行きなさいな」

待て待て、もう夜だ。
流石にそれはお父さんも許さないだろう。

「そうだな、一品ぐらいは作れるようになって来なさい」

いやいや、了承するのか。

「いい……かな?」

そんな上目遣いで俺を見ないでくれ。

「俺は、構わないけど」

俺はこれに弱いのだ。
早速準備に取り掛かる生田。
俺は玄関で彼女を待った。
大きめの鞄を持った生田が2階から降りてくる。

「絵梨花、ちょっと」

「ん?」

生田の耳元で何か囁くお母さん。
途端に反応した生田が、お母さんを小突いている。

「もう、お母さんったら……」

ぶつぶつ言いながら生田が靴を履く。

「それじゃあ行ってきます!」

「ご馳走様でした。お邪魔しました」

「東雲君、絵梨花の事よろしくね」

「はい」

自転車の後ろに生田を乗せ、夜道を走る。
陽が落ちてもまだまだ暑い。熱帯夜になりそうだなこれは。

「ねえ東雲君。名前で呼んでもいい……かな?」

「もちろん」

「裕樹……君。ありがとう!」

呼び捨てではなく君付け。
なんだか新鮮だ。
生田が俺の服をキュッと掴む。
俺は少しスピードを上げた。


イヴ ( 2018/07/20(金) 20:30 )