11章
11
微笑ましい光景を眺めながら教室に入ると、右半身に軽い衝撃が。

「きゃっ」

「あっ、ごめん大丈夫?」

タイミング悪く、1人の女の子とぶつかってしまった。
その子は手に持っていた荷物を落としてしまい、中の物が外へ。

「ヤラカシタ、ヤラカシタ」

慌てて拾い集める女の子。
ああ、昨日の棒読みの子だ。
同じように俺も拾い集め、彼女に手渡す。

「はい。えーっと、楓ちゃんだったね」

「えっ、あっ、はい。覚えてるんですか?」

あれ、全然棒読みじゃなくなった。
何か面白いなこの子は。

「オボエテル、オボエテル」

「ソレ、ワタシノマネデスカ?」

「ソウデス」

しばらくの沈黙。
視線がぶつかる。
そして2人同時に笑った。

「先輩面白い人ですね」

「楓ちゃんもね」

「えーっ、でも結構気にしてるんだけどなぁ……」

「個性だし良いと思うけど?おかげで楓ちゃんの名前覚えてたしさ」

「サトウカエデ」

ん?本名の事か?
でも何で突然。

「サトウカエデ?」

「そうです。サトウカエデと同じ名前なんです私」

ああ、そっちの話か。

「サトウカエデのサトウはお砂糖の砂糖って書くんですよ。あ、私はお砂糖のサトウじゃ無いですけど」

空中に指で文字を書く楓ちゃん。
恐らくだが、佐藤と書いているように見える。

「それに!サトウカエデの樹液を煮詰めたものが、パンケーキにもかかってたメープルシロップなんですよ〜。サトウカエデって凄いですよね!」

「お、おお……」

「覚えてくださいね、サトウカエデ」

「分かったよ」

やっぱ面白いなこの子。
喋り出したら止まらないし。
サトウカエデと佐藤楓。
これも忘れそうには無いな。

「ねえ東雲君!」

白石がお呼びだ。

「それじゃあね、楓ちゃん」

「あっ、先輩」

「ん?」

「あの、お名前は?」

「俺?俺は東雲裕樹」

「じゃあ東雲先輩。キノウモ、キョウモ、タノシカッタデス」

「ソレハナニヨリデス、カエデオジョウサマ」

お互いまた同時に笑い、俺は白石の元へ向かう。



イヴ ( 2018/09/30(日) 04:41 )