1章
06
校長室に入ると、校長が座るべきはずの席に違う人物が座り、手前のソファに校長が座っていた。一体あの人は誰だ。おそらく外に出ている時に聞こえたのはあっちの方の声だ。

「で、お呼び出しの要件ってなんすか?」

相変わらず肝の座っているというか馬鹿なのかわからない隼人の質問のおかげで話の進行はスムーズにいっている。

「こ、こら君!この方は……」

「まあまあ、校長先生。私が誰かなんてどうでもいい。早速だが坂道高校の数少ない男子生徒の君達に折り入ってお願いがあるんだが聞いて貰えるかな?」

校長の慌て方からみてよほどの偉い人なんだろう。この穏やかさがかえって怖い。
俺たち3人は一度顔を見合わせ、再度その男の方を見た。

「ふむ。良い顔をしているね。特に真ん中の君は」

「え?俺……ですか?」

真ん中に立っているのは俺なのだから俺しかいないのだが、俺がこの中で指摘される理由が見当たらない。
度胸的なもので言えば隼人だろうし、この空気に何の動揺も見せていない圭介もまたしかりだ。

「そう。君は今、物凄く頭の中で色々な事を考えているね。私が一体誰で、何の為に呼び出せれて。そしてもっと先の良くない事まで想像している。違うかな?」

当たりだった。
あの男が言う良くない事とは、俺が想像している、この学園生活に関しての支障をきたすようなお願いなのではないかと言う事。
この男の前では全てが見透かされている。

「ま、まあ」

「はっはっはっ。安心してくれ。そんなに難しいお願いじゃないよ。では早速だが本題に入らせて貰うよ」

男がそう言うと校長が席を立った。
手にはファイルの様なものを持っていて、それが俺たちに手渡された。

「そのファイルは私が今企画している物の詳細が記入されている。ざっと目を通してもらえるかな?」

黒のファイルに複数枚の用紙が綴じられており、細かな文字が並んでいた。

「アイドル育成プロジェクト?」

「そう。この学校に入学して来た女子生徒はね、皆んなアイドル志望の子達なんだよ」

「じゃあ何で女子校にしなかったんですか?」

圭介の質問は俺も思っていた事だった。
その方が何かと都合もいいはずである。

「いい質問だ。高校生という思春期真っ只中の時期に女子校という環境で育つと男性に対しての免疫を失ってしまうと私は考えている。そこで君達にはこの学校の女子生徒に青春を与えて欲しいんだ」

「そんな難しい言い回ししなくてもいいじゃん。要はそういう事だろ?」

隼人の口角が上がっている。
恐らくこれは隼人の悪い顔。
まあただ今の言い回しをされても薄々は気づいている事だったのだが。

「君達の想像している事は恐らく正解だろうね。一番最後の用紙を見てくれるかな?」

その用紙に目を通すと、俺以外の2人もやはりといった反応を示していた。
全くこの男は何を考えているのだろうか。

「別に強要はしない。しなかったからといって何か君達に不利益な事があるわけでもないから安心してくれ」

男はただただ薄ら笑いをしているだけだった。







あの男の話が終わり、3人で帰路についていた。もちろんその中での会話は先程のもの。

「あのおっさんもゲスいこと考えるよな」

確かにそうだ。
青春を与えてやってと言われれば聞こえはいいが、内容自体はそんな可愛いものではない。

あの後、用紙を確認すると女子生徒の名簿が記載されてあり、その横に空白のチェックマークを付ける項目があった。
その項目には、デート、キス、性行為という項目があった。
ようはこの項目を埋めていけという事なのだろう。
しかし後にアイドルになるであろう女子生徒達にそういった過去を作って大丈夫なのだろうか。

「俺は俺の自由にするよ。めんどくさそうだし」

相変わらず圭介は能天気だった。
でもそこが圭介の良いところなのかもしれない。

「でもさ、あの言い方気にならないか?しなくても不利益はないって、言い換えたら、それをしたら利益があるって事じゃないかなって」

そう。俺はこの事がずっと引っかかっている。ずっと回りくどい言い方をしていたあの男の事だ。きっと俺の解釈は間違っていないと思う。

「まあ別にあってもなくても好きにしていいんだろ?ヤリまくったって何の問題も無いってことじゃん」

ケラケラと笑っている隼人を見て俺は隼人の性格が羨ましいと思った。
変に考えるのはやめよう。そうしよう。
まだ始まって1日目なんだ、一旦は流れに身を任せてみるのもありかもしれない。
こうして俺の長い1日が終わった。


イヴ ( 2018/06/02(土) 22:29 )