12
何を考えているかわからない奴ほど苦手な人はいない。まさに、今目の前にいるこいつがそうだ。俺は北野を睨んでいた。
「そんな怖い顔しないでよ〜。東雲君が悪い人じゃないか試しただけじゃんか」
さっきまでの元気は何処へやら。急にしおらしくなった北野に、俺は不覚にも少し可愛いという感情を持ってしまった。
が、試したとはどういう事だ。そこはいくら可愛かろうが関係ない。
「試す?何で?」
俺はあえて冷たい態度で北野に対応する。
「……飛鳥の事傷付けないかどうか」
北野は今にも泣き出すんじゃないかという顔をしていた。
それも重大なのだが、北野が飛鳥をどれだけ大切に思っているのが分かった瞬間だった。
クラスにたった1人の男と、初日からあんな風になっていれば、仲の良い北野から見れば心配だったのだろう。
「はぁ。なんだ、お前良い奴だな」
「え?」
「飛鳥の為にさっきみたいな事したんだろ?」
「……うん」
しかし1つだけ許せない事がある。
「だからもう怒ってない。けどこれだけは言っとく。もっと自分の事大切にしろよ。飛鳥の為って言うならさ」
俺はそれだけ言い残し、席を立った。
抱かれてもいいなんて簡単に言っていいものではない。
もし俺がクズ野郎で、その言葉を鵜呑みにして無理やり北野を襲うような人間だったらどうだ。
本人が傷付き、更にはそれを知った飛鳥もきっと傷付く事だろう。
「ちょっと待って!」
食堂を出た所で、後ろから追いかけて来た北野に呼び止められた。
俺は黙って振り向く。
「その、ごめん。それから、えっと……ありがとう」
「別にいいよそんなの。それよも、これからは普通に頼むよ、焦るから。まあ、これからよろしくな」
俺は手を差し出す。
その手を北野が取る。
「うん!」
1つ訂正。
こいつやっぱり笑ってる方がいい。
「飛鳥ごめん。飛鳥の事応援したかったけど無理みたい……」